それはDAYS NEOから始まった #17 『RED RULE』貴島淳先生×担当編集インタビュー

それはDAYS NEOから始まった #17 『RED RULE』貴島淳先生×担当編集インタビュー

マッチング型マンガ投稿サイト「DAYS NEO」から連載に繋がった作者と作品を紹介する「それはDAYS NEOから始まった」、第17回!

今回は2020年9月に週刊少年マガジン編集部・土岐(以下、土岐)とマッチングし、2024年3月8日発売の別冊少年マガジン4月号で『RED RULE』の連載を始める作者・貴島淳(以下、貴島)にインタビュー。

マッチングから連載開始までの取り組みや担当編集者とのやりとり、貴島さんのこだわりポイントなど、マンガ家を目指すみなさんにもタメになることをバッチリ聞いてきました!

『RED RULE』チームの紹介

「せっかく描いたし」くらいの気持ちでDAYS NEOに投稿しました

ーDAYS NEOにご自身の作品を投稿しようと思ったキッカケを教えてください。

貴島:
ぼくが大学に入学してすぐの頃、ちょうどコロナが流行し始めたんです。自粛生活で時間があったのでマンガを描き始めました。最初はプロになりたい!というより趣味のひとつ…という感じでした。当時は本気でマンガ家を目指していたわけじゃなかったので、投稿先はどこでもよかったんです(笑)。

強いて言うなら、好きな作品である『進撃の巨人』の講談社が運営しているサービス…ってことでDAYS NEOを選びました。

ーというと、それまではマンガを描いたことは一切なかったんですか?

貴島:
なかったですね。ずっと憧れみたいなものはあったんですけど。ストーリーを考えたのも、ちゃんと絵を描いたのも、大学に入学してからです。

土岐:
貴島さん、大学での専攻は建築系ですよね?建物などは描いたことあったんじゃないですか?

貴島:
なかったです。そもそも入学してすぐだったので、建築の勉強をする前にマンガを描き始めました。

ーDAYS NEOに『終点の王』を投稿されたのが2020年6月…ということは、描き始めてから投稿まで、2ヶ月くらいですか?

貴島:
そうですね。一番最初に描いた作品が『終点の王』で、それをそのまま投稿しました。このあいだ読み返してみたら未熟すぎて「これはヤバい」って思いました(笑)。

2020年6月にDAYS NEOに投稿された『終点の王』

土岐:
読んだときに「これで初めてなの!?すごいネーム力だ!」って思ったんです。それで担当希望してマッチングしたときに「投稿してくれたネームが上手だし、これからもっと上達すると思うよ。画力を知りたいから完成原稿も見せてほしい」って伝えたら「これが原稿です」って言われて。すごく気まずかった(笑)。

貴島:
(笑)。

土岐:
初対面でめちゃくちゃな失礼をかましてしまいました…。ただ、本当に面白かったんです。しかもそれが8話目まで投稿されていた。初めてでこの話数を描けるのもすごいし、各話のヒキも見事で。ネームと原稿の勘違いはありましたが、貴島さんの「ネーム力」は『終点の王』の頃からハイレベルでした。

貴島:
本当に趣味のつもりだったので、先の展開とかもロクに決めずに描いてました。DAYS NEOへの投稿も、「せっかく描いたしどこかに投稿しとくか」くらいの気持ちだったんです。それがこんなご縁につながるとは全く思ってませんでした。

土岐:
マンガを描いてはいるけど投稿サイトやマンガ賞に投稿するのは怖い…って方は多いと思うんですが、貴島さんは「マンガを描こうと思う→描く→投稿する」までが本当に早いですね。

貴島:
そうなんですか?

土岐:
描いた直後に、悩まずWEBに投稿してるのは行動力がありますよね。

担当希望の決め手は「ネーム力」でした

ー先ほど「ネームが上手い!」と思った…と伺いましたが、具体的にどこにそれを感じましたか?

土岐:
そうですね。ファンタジー作品って、作家さん独自の設定が他ジャンルよりも重厚なことが多いと思うんですけど、世界観や設定の開示に注力しすぎてしまうと「こんな設定考えたんですけど、どうですか?」って設定発表会みたいなネームになってしまう。そうなると読者が置いてけぼりになってしまって、面白くならないことが多々あると思うんですよ。

貴島:
ほうほう。

土岐:
ほうほうって(笑)。
『終点の王』を読んだときは、キャラクターに関する感想が真っ先に思い浮かんだんです。キャラクターの魅力を描いて読者を作品世界に引き込む、という基本を感覚で理解されてる方なんだろうなと。これからの伸びしろも感じて、担当希望を出しました。

貴島:
初めて聞きましたよそんなこと(笑)。

土岐:
同じようなことは絶対言ったことある(笑)。
例えば、1話目で敵の司令官みたいな、いかにも強そうなキャラが部下の失敗を詰めてるシーンがあるんです。部下が「司令官が来てくれたら万事解決なんですが…」って言ったときに「いや、いかん。めんどい。」みたいに断っちゃう。で、部下も「ですよね」みたいな反応に。

『終点の王』第1話より

自分の都合だけでネームを描いていたら、きっとこういうシーンは描けないと思うんです。司令官が「じゃあおれが出よう」って言って主人公とバトルしてくれればストーリーは一気に進められるし、そのほうが設定を説明するチャンスも増える。ただ、貴島さんはそれをしないんです。「キャラクターを面白く見せる」ことを優先して描いているのが、めちゃめちゃすごいなと思いますね。

貴島:
へぇ。ありがとうございます。

土岐:
そっけない!(笑)

貴島:
もしかしたらこんな話は以前にも聞いてたかもしれないんですが、3年くらい前なので忘れちゃいましたね(笑)。新鮮な気持ちで聞いてます。

「このマンガを読んで担当になりたい」ってどんなやつだよ?って思いました

ー貴島さんは土岐さんからの担当希望を受け取った時、どう思われましたか?

貴島:
え、なんか…変な人だなって思いました(笑)。このマンガを読んで担当になりたいって言ってくるってどんなやつだよ?って。

土岐:
なんすかそれ(笑)。

貴島:
その後、何度も講談社で打ち合わせを重ねていったんですけど、やっぱり変な人でしたね。

土岐:
褒めてんのね?

ーめちゃめちゃ仲良しですね(笑)。土岐さんからの編集者メッセージを初めて読んだとき、どうでしたか?

貴島:
すごく褒めてくれていたので、素直に嬉しかったです。自分の作品が人に読まれて、評価をしてもらえたこと自体が初めてだったので。

土岐:
DAYS NEOに投稿する前は本当に誰にも見せたことなかったんですか?

貴島:
そうですね。本当に初めて人に見せたのがDAYS NEOでした。だって、友達に見せるよりもWEBに投稿する方が気楽じゃないですか。匿名ですし。

土岐:
なるほど(笑)。マンガを1話仕上げた時点ですごいことだし、さらにそれを人に見せるってすごいことですよね。DAYS NEOに投稿されている皆さんには自信を持ってほしいです。

貴島さんは「芯がアチィ男」なんです

ーマッチングして初回の打ち合わせは講談社だったんですか?

土岐:
週刊少年マガジン編集部の打ち合わせスペースで顔合わせしました。
初めてお会いしたとき、貴島さんはまだ10代だったんです。大学1年生。ぼくも20代前半だったのでそこまで年は離れてなかったんですが、すごく大人びてみえました。自分が同じ年の頃とは全然違うなって思いました。

貴島:
へぇ。そんなふうに見られてたんですね。

土岐:
さっき貴島さんも仰ってたんですが、最初は趣味のつもりで描かれてたんですよね。だから、実際にお会いするまではガッツがある方なのか不安だったんです。ただ、「担当が付いたからには頑張ります」って言ってくれて。

貴島:
ぼく、そんなこと言ったんですか。

土岐:
しかも、当時はご家族に内緒でマンガを描いていて。「親にバレちゃうから」って毎回ネットカフェまで行って僕と電話してたんですよ。

貴島:
ネットカフェ…行ってました。それで打ち合わせに遅刻したこともありますね。

土岐:
その後しばらくしたら「親を納得させるために、大学在学中に結果を出したい」って言ってくれたんです。それを聞いて「コイツ、芯はアチィ男だな」って確信しました。
もちろん、その期間で結果を出すためには相応の努力が必要ですし、特に貴島さんはマンガ歴が短かったので、経験不足を埋めるために「量」をこなす必要がありました。
ただ、貴島さんはすごく向上心が強くて、本当にたくさんネームを持ってきてくれました。

貴島:
頑張りました。

土岐:
いや、ほんとに。すごく頑張ってた!結果、大学の卒業前に『RED RULE』の連載を決めてくれて。有言実行で、かっこいいです。

貴島:
おぉ。褒められてる(笑)。

ーネームはこれまでどのくらい描いてこられたんですか?

貴島:
え、どのくらいになるんでしょう…?
ちょっと数はわからないんですけど、どのくらいの頻度で出してましたっけ?月イチとか?

土岐:
月イチ以上のペースでもらってましたよ。新人賞を卒業したのがだいたい1年前なので、まるっと2年間は2-3週間に1本、50ページの読み切りネームを出してくれてましたね。

貴島:
そうか、月1-2本は出し続けてたんですね。

土岐:
そうなると…2年で少なくとも50ページの読み切りを30本くらいの計算ですか。

貴島:
多いですね(笑)。

土岐:
これってすごいことなんです!このペースを2年間継続したのが本当にすごい。ずっと頑張り続けられる新人さんは少ないので。

ーそして2年後に新人賞を獲って、連載ネームの提出に進まれたんですね。

土岐:
週刊少年マガジンは月例賞のマガジンライズと、年2回の新人漫画賞を開催しています。そこで結果を残した新人さんが、連載ネームを作る段階に進みます。もちろんイレギュラーも多いんですけど、これが王道ルートですね。貴島さんは初投稿から2年で新人漫画賞の佳作を受賞されて、1年弱かけて連載獲得に至ります。努力の賜物ですね。

貴島:
ありがとうございます。

土岐さんは「意外と明るい人」でした

ー貴島さんからみた土岐さんの第一印象はどんな感じでしたか?

貴島:
意外と明るい人だなって思いました。編集者さんって、なんだか怖そうな人が多いイメージがあったんです。会ってみたら明るくて優しそうな人だったので、安心したのを覚えてます。

土岐:
めっちゃイケメンだった、とか言ってくれてもいいよ?

貴島:
めっちゃイケメンでした(即答)

一同:
(笑)。

ーそれから3年ほど経って、お互いの印象って変わりましたか?

貴島:
ぼくはあんまり変わってないですね。

土岐:
貴島さんへの印象も最初から変わってないです。納得いかないと、淡々と「なんでですか」って刃を返してくるところなど。

貴島:
喧嘩することもありますね。

土岐:
たまにね。
いま思い出したんですけど、貴島さんがしばらくネームを持ってこなくなった時期があるんです。

貴島:
そんなことありましたっけ?

土岐:
いつだったかな…大学が忙しかった時期だったと思うんですけど。それでしばらく打ち合わせをしてなかったんです。でも、忙しいながらも原稿は描いてくださってて。打ち合わせをしていない状態で描いた原稿をもらったんですが、その作品が前よりも良い結果だったんです。

貴島:
(笑)。

土岐:
そのとき「打ち合わせしなくても良い賞取れましたね」みたいなことを言ってきて(笑)。「なんだ、このやろう」って(笑)。

ーそれまでふたりが重ねてきた議論が貴島さんの土台をつくってきた…ってことですよね?(笑)

土岐:
そうだといいんですけど(笑)。貴島さんがすごいんです。

貴島:
そんなことないですよ。

土岐:
当時はあんなこと言ってきたクセに…(笑)。

「2年後に新人賞を卒業」を目標に、とにかく「絵」の話をしてきました

ー最初は新人賞で良い結果を獲ることが目標だと思うんですが、そのときは「こんなことをできるようにしよう」「この力をつけよう」みたいな話はあったんですか?

貴島:
ぼくはマンガ家を目指すなら大学在学中にプロになりたいって思ってたんです。そしたら土岐さんが「2年くらい修行を積んで、3年生の時に新人賞で佳作以上をとれるようにしよう」って言ってくれたんです。だから、そのスケジュールを意識してやってきました。で、ちょうど3年生になる頃に佳作を獲ることができました。

土岐:
技術的なところでいうと、ストーリーやコマ割りなどはあまり僕が口を出すことはありませんでした。貴島さんの中に「面白いもの」のイメージがちゃんとあったので。なので、当時は未熟だった「絵」の話を何度もしてきましたね。

貴島:
何度もされましたね。

土岐:
絵についてはかなり厳しい言い方をしてしまったこともありました。「今の絵だとお金を出して買ってくれる人は少ないと思う」みたいな。でも、絵は作品の入口でもあるので、たくさんの人に読んでもらうために、絵を練習していこうって話をしていました。

貴島:
何度もされましたね(2回目)。

土岐:
画力は描いた枚数こそが上達の近道だと思うので、そういう意味でも「たくさん企画をつくってたくさん描いていこう」って言ってましたね。

ーそれが2-3週間ごとに50ページの読み切りネーム提出…につながるわけですね。

貴島:
おお、つながった(笑)。

土岐:
ただ、それだけ本数を重ねた作品たちも、ネームそのものに対しての指摘や修正は少なかったと思います。

貴島:
そうですね。やっぱり絵についての指摘が多かったですね。

土岐:
絵は作品数を重ねるごとに上達していきましたし、「マンガ的な演出」もどんどん上手くなっていきました。「この作品ではこういう感情を表現できるようになろう」とか「ビルを描くのが苦手だから克服しよう」みたいに目的意識を持って原稿を描かれる方なので、それが成長の速さを生み出したのだと思います。

ー自分に必要なものを棚卸しして、目的意識を持って創作に取り組む…という姿勢が「大学卒業までに結果を出す」という目標を叶えたんですね。

土岐:
一般的には、初投稿から2年で新人賞を卒業するのは早いほうです。マンガ未経験からって意味では、めちゃくちゃ早い。

貴島:
そうなんですか?

土岐:
とんとん拍子にステップアップしてました。

ーDAYS NEO投稿作の『終点の王』から新人賞の佳作をとった『スタンド・バイ・ミーナ』にかけて、土岐さんからみて「ココが変わったな」というところはあるんですか?

土岐:
そうですね…とんちみたいな答えになってしまうんですが、「変わってないところ」がいいなぁと思っています。貴島さんは根っこに自分なりの美学を持ってらっしゃる。それが今も変わってないと思うんですよね。

貴島:
へぇー。

土岐:
『スタンド・バイ・ミーナ』は居場所のない人が力強く生きていく様とか、過酷な状況下でも人を想う気持ち…みたいなものを描こうとしていて。結構暗い雰囲気の作品なんですけど、『終点の王』と通ずるところが多いんです。ご自身の美学をいろんなアプローチで描けるようになっていったのが、2年間での成長なんじゃないかと思いますね。

『スタンド・バイ・ミーナ』より

ー根っこにある表現したいモノは変わらずにマンガの力を高めていったってことですね。『スタンド・バイ・ミーナ』が暗いって話がありましたが、『RED RULE』の連載予告の「マトモなやつから死んでいく、人類史上最悪の英雄譚」ってアオリもすごかったですね。

貴島:
あのアオリ、カッコいいですよね。

別冊少年マガジン 2024年3月号 次号予告ページより

土岐:
ありがとうございます!

『RED RULE』は「好きなもの」から生まれた

ーおふたりはどんな流れで打ち合わせをしているんですか?

土岐:
『RED RULE』に関しては、まだ1話目が上がったばかりのタイミングなので、これから探り探りですね。
新人賞を卒業して、連載ネームをつくってもらっているときは…

貴島:
ぼくが企画書を描いて、できたら土岐さんに渡して、って感じでしたよね。

土岐:
そうですね。貴島さんが連載のネタを書いた企画書、キャラ表と設定案と大きいあらすじをつくってくれて、それで打ち合わせして、ちょっと喧嘩して…みたいな(笑)。

貴島:
この時期は結構喧嘩してましたね(笑)。

土岐:
貴島さん、ずっと「ファンタジーマンガをやりたい」って言ってたんです。『終点の王』もそうですし。それを僕が「いや、ファンタジーはダメだ」と(笑)。

貴島:
(笑)。やっぱりマンガって現実ではありえないことを描けるので、世界も現実じゃないところを舞台にしたほうが面白いなと思っていたんです。でも「その世界の設定に意味がないと企画としてダメ」って土岐さんに言われて。「なんでだろう?」って。ぼくはその設定が面白ければいいだろって思ってたんですけど(笑)。

土岐:
貴島さんの仰ることは一理あると今でも思っているんですが、世界観とか設定自体を面白がってくれる読者ってそんなにたくさんはいないよね、と。読者という存在を俯瞰で捉えたときに、そんな読者ってどれくらいのボリュームかな?って話をしました。

貴島:
されました。

土岐:
貴島さんの中で「独自の設定をつくりたい」という気持ちが大きくなってらっしゃるのを感じて。悪いことではないんですけど、読者を喜ばせることにこそ向き合ってもらわなきゃとも思ったので「ファンタジーは力をつけてから2作目、3作目で挑戦しませんか」と提案しました。まずは読者が読みたいものを考えて、企画をもっと尖らせてキャッチーなものを描こうよ、という話をさせていただきました。

貴島:
渋々応じました。

土岐:
渋々ね(笑)。それで違う路線を模索しているとき、歴史が好きだと話してくれたんです。「面白そうな国とか時代あります?」って聞いたら「スパルタとかですかね」って。それが『RED RULE』が生まれた瞬間かもしれません。

ー「貴島さんの好きなもの」に立ち返って企画を考えたんですね。

貴島:
そうですね。土岐さんに「歴史が好きなら、歴史マンガを描いたらどうか」って話をいただいて。歴史だったら古代のギリシャやローマが好きだったので、その中で面白いテーマを考えてたら「スパルタいいんじゃない?」って話が出たんです。打ち合わせの最中でしたね。その打ち合わせがなかったら『RED RULE』は生まれてないと思います。

土岐:
おお。インタビューっぽくなってきましたね。

貴島:
やめてください(笑)。

ちゃんと勉強したうえで嘘をつきたい

ー「歴史マンガ」を描くうえで、史実の部分と、作品だから盛り込めるフィクションの部分の塩梅ってどのように考えてらっしゃるんですか?

貴島:
マンガ的表現のために史実を誇張したり、時には嘘をつくことは大事だと思うんですけど、それは自分がわかったうえで、意図してやりたいんです。自分の知識不足で史実の描写のミスが出ちゃうんじゃなくて、ちゃんと勉強して史実を知ったうえで意図的に改変したい。それはちゃんと区別したいなって思ってます。現実的に史実の全てを理解するのは難しいんですけど、できるだけ頑張っていきたいです。

土岐:
ってなると、調べ物も大変ですよね?

貴島:
大変ですね(即答)。

土岐:
貴島さん、これまでのエピソードからもわかると思うんですが、めちゃくちゃ真面目な方なんです。調べ物の熱量もすごい。ぼくが人生何回やっても読まなそうな史料を「これ欲しいので取り寄せてください」って連絡が来たりします。

貴島:
(笑)。

土岐:
正直ぼくはネタ出しについては力になれていないので、貴島さんの探究心と真面目さに頼っちゃってますね。

貴島:
調べ物の補助をしてもらえているので、ぼくも助けられてますよ。

土岐:
打ち合わせで貴島さんに史実を教えてもらったとき、知識がないので「なにそのエピソード!面白いじゃないですか!」って素直に喜んでしまいます。

貴島:
それ、本当にありがたいことなんですよ。読者のほとんどの方はそんなに歴史に詳しくないと思うので、その視点からリアクションをいただけるのは助かってます。

土岐:
それじゃあこれからも調べ物はしなくていい、と。

貴島:
ちょっとはしてください(笑)

土岐:
はい(笑)。

ー『RED RULE』1話目の冒頭、「スパルタ」という言葉の語源に触れて、あのヒキじゃないですか(※)。読者もゾクゾクするところだと思うんですけど、おふたりのこういったやりとりがあの演出にもつながってるんだな、と思いました。
(※DAYS NEO運営注:1話目のヒキ、バツグンにカッコいいのでぜひご覧ください!)

貴島:
ありがとうございます。

土岐:
実はいま1話目の校了間際なんですけど、ちょうど昨日も「すみません!アギアじゃなくてアビアでした!」って連絡が来まして。固有名詞に馴染みがなくて難しい(笑)

貴島:
そうなんですよ。調べれば調べるほどミスがみつかるので胃が痛いです。

土岐:
…ってな感じで今もバタバタしてますね。

ーもしかしたら単行本発売のときに校閲担当者からガチガチの指摘がもらえるかもしれませんね(笑)。

土岐:
今から怖いですね…。講談社には、単行本化のタイミング(マンガ作品の場合)で、作品内の記述や表現に誤りがないか総チェックする校閲担当者がいるんです。

貴島:
ほうほうほう。

土岐:
『RED RULE』も単行本化のタイミングで隅から隅までチェックしてもらえるので楽しみにしていてください(笑)。

貴島:
めちゃめちゃありがたいですね…すごい。楽しみです。

物事の「境目」を意識しています

ー他にも、なにか創作におけるこだわり…みたいなものはありますか?

貴島:
リアルな部分と、リアルじゃない部分をうまく混在させたいなと思ってます。リアルじゃないものをリアルにみせるためにはその境目を意識しないと、と。

土岐:
『楽園落とし』という過去作品があるんですが、舞台は天国で、生前犯した罪の大きさで能力が決まる…っていう設定なんです。天国って幸せの象徴じゃないですか。でも、作中では天国にも虐げられてる人がいる。リアルとリアルじゃないものの境目…っていうのは昔から意識されてたのかなと思いました。

『楽園落とし』より

ー『RED RULE』の1話目でも、罪についてはストレートな表現がされていますね。貴島さんの「罪の捉え方」について深堀りしてみたくなりました。

土岐:
そういえば、佳作を獲った『スタンド・バイ・ミーナ』もそういう話なんですよ!殺し屋の師匠と弟子の話なんですけど、これも「その罪を赦せるかどうか」っていう物語なんです。

貴島:
人間の汚い部分が好きなのかもしれないですね。汚い感情とか。

土岐:
復讐心とか?

貴島:
そうですね。人間ってみんな善の部分と悪の部分を持ってて、100%の善人も100%の悪人もいないと思うんです。だから、その悪い部分をマンガに落とし込むのが好きなんじゃないかなと思ってます。

土岐:
『RED RULE』の題材、ピッタリじゃないですか。

貴島:
そうですね。『RED RULE』は悪い方の欲求を強くフォーカスしていきますし。

土岐:
悪い欲求しか出ないですもんね。

貴島:
(笑)。読者のみなさんも人間なので、悪い欲求を満たすことでもちょっと気持ちよくなってくれると思うんですよね。

土岐:
読者がキャラに悪い欲求を預ける…って感じですか。

貴島:
読者の汚い部分を刺激して気持ちよくさせて、屈辱を味わわせたいですね(笑)

土岐:
最後のはちょっとよくわかんなかったですけど(笑)、貴島さんに楽しく連載していただくのが一番です。

『RED RULE』連載直前に思うこと

ー『RED RULE』の連載開始が間近に迫っていますが、楽しみなこと・大変なことってありますか?

貴島:
マンガを描くのが好きなので、ずっとマンガを描く生活ができるのが楽しみです。
あと、これからは細かいストーリーを毎月考えていくことになると思うんですけど、まだぼくもどういうストーリーになっていくかわかっていないところもあって。だから、連載していく中で『RED RULE』がどんな作品になっていくのかが純粋に楽しみです。

土岐:
連載の醍醐味ですよね。心配事などはありますか?

貴島:
締め切りが毎月あるので…(小声)。

土岐:
でも、このあいだ卒論は終わりましたもんね?1話目の原稿期間がちょうど卒論の追い込みの時期だったんです。さすがに大変そうでした。

貴島:
死ぬかと思いましたね。めちゃめちゃ大変でした。

『RED RULE』は新しい形のバトルマンガとして気軽に楽しんでもらいたい

ーそれでは最後に、『RED RULE』の魅力を担当編集・土岐さんにお聞きしたいです!

土岐:
「残酷なやつが強い」という価値観の世界で、主人公は「残酷さの天才」。少年マンガとしては類を見ない切り口ですし、それ自体がめちゃめちゃ面白いと思っています。「人類史上最悪の英雄譚」というアオリも全く過言ではないです!
今までにない新しいヒーロー像ですし、ぼくも一読者としてこれからの展開を楽しみにしています。主人公以外にもイカれたやつらがどんどん出てくる予定ですので、歴史マンガだと構えて読んでもらうより、新しい形のバトルマンガとして気軽に読んでいただけたら嬉しいです!

貴島:
完璧じゃないですか。

土岐:
これだけはちゃんと考えてきました(笑)。

ー完璧な紹介でしたね(笑)。それではこちらでインタビューは終了です。おふたりとも、連載間近のお忙しいときにありがとうございました!

土岐:
ありがとうございました!

貴島:
ありがとうございました。連載がんばります。