マッチング型マンガ投稿サイト「DAYS NEO」から連載に繋がった作者と作品を紹介する「それはDAYS NEOから始まった」、第27回!
今回は2023年8月にタテスクコミック編集部 沖垣(以下、沖垣)とマッチングし、2025年11月28日(金)よりLINEマンガにて先行配信が開始する『歌舞伎町モラトリアム』の作画を担当する森野ハルナさん(以下、森野)にインタビュー。
タテ読みマンガの連載経験があった森野さんがDAYS NEOを利用したきっかけ、そこから“エッセイをコミカライズする”という珍しい形での連載に至るまでの担当編集・沖垣氏との歩み。週刊連載のためのスケジューリングのコツなども詳しくお話しいただきました!

大学生の優衣は、将来に夢も目標もなく、彼氏にも振られ、ただ無為に大学生活を送っていた。そんなある日、ひょんなことから足を踏み入れた歌舞伎町のホストクラブでホストのソラに出会い、日常は一変。モノクロだった日々が色づいていく。歌舞伎町で、「姫」と「担当」という関係性の中で共鳴する二人の、行きつく先は――?

2023年8月 DAYS NEOに『不倫の沼』を投稿。
2025年11月28日 LINEマンガにて『歌舞伎町モラトリアム』の連載を開始。

歴代担当作品は『くらやみガールズトーク』『ハルとゲン ~70歳、はじめての子育て~』『サレ妻聖女』など。
2023年8月 DAYS NEOにて森野ハルナさんとマッチング。
本インタビューは作品のネタバレを多く含みます。
ぜひ『歌舞伎町モラトリアム』を読了後にご覧ください!
“タテ読みマンガならでは”の卓越した表現がもたらしたマッチング
―DAYS NEOに投稿したきっかけを教えてください。
森野:
もともとDAYS NEOの存在は知っていて、時々マンガの勉強のために編集者さんのメッセージを見ていました。ふとサイトを覗いたときに「第3回 オールKADOKAWAによるタテスクコミック大賞【プレコンテスト】」が開催されているのを見つけたんです。いいきっかけだなと思って投稿したところ、マッチングして優秀賞をいただきました。
―投稿作の『不倫の沼』はどういった背景で描かれたんですか?
森野:
タテ読みマンガは、不倫や復讐を描く作品がヒットしやすい傾向にあります。なので編集者さんの目を引くよう、インパクトが大きくパッとわかるようなタイトルをつけて、インモラルな題材にしようと思って描きました。
沖垣:
森野さんの狙い通り、すごく惹かれました(笑)。
―戦略がバッチリはまっていますね。
ところで、編集者メッセージはどのように活用されていたんですか?
森野:
編集者さんがマンガのどこに注目しているかがよくわかるので、自分のマンガを客観的に分析するために、他の方の作品に送られているメッセージも拝見します。
結構いろいろな編集者さんのメッセージを読ませてもらっていますね。
沖垣:
私も、自分がメッセージを送るときはほかの編集者さんのメッセージを見ています。着目している部分や惹かれる部分の違いとか、参考になると感じることが多いので森野さんの気持ちめっちゃわかるな~と思いつつ…自分も頑張らなきゃと思っています。
―メッセージが常に編集者・マンガ家さん両方の目に晒されているのはDAYS NEOの特徴のひとつです。
では沖垣さん、森野さんの投稿作『不倫の沼』に担当希望を送った理由を教えてください。
沖垣:
タテ読みマンガの表現が飛び抜けて洗練されている、という印象を持ったからです。
「夫の指示のもと浮気をする妻と男子大学生」というインモラルで湿っぽいテーマを、爽やかさと湿度が共存する夏を舞台に進行していく。構成力の高さを感じました。
―具体的には、『不倫の沼』のどのあたりに表現力・技術力を感じましたか?
沖垣:
本当に全体的にお上手なんですけれども…。タテの画面を活かした魅せ方が特に素晴らしいと感じました。
正面の構図で小説家の夫が「すぐに俺を呼んで」と言いながら危なさを感じさせる表情でこっちを見ているコマにはドキッとしましたし、最後のシーンでヒロインが大学生に迫るところがその場面のリフレインになっているのも素晴らしく、ほれぼれしてしまいました。

非道徳的な行動に溺れていく夫婦を印象的に描いている。
※編集者限定公開作品
―『不倫の沼』にはどんどんスクロールしたくなる仕掛けがありますよね。
続いて森野さん、沖垣さんの担当希望を承諾した理由を教えてください。
森野:
まず、メッセージと担当希望が来たこと自体が嬉しかったです。メッセージの内容も、「ここを見てほしいな」と思ったところにピタリと言及してくれていました。
タテ読みマンガの連載経験はあったので、次のお仕事としてコミカライズをやってみたかったんです。『不倫の沼』の概要文にも「コミカライズに興味があります」と書いたのですが、メッセージでコミカライズの相談もできると書いてくださっていたので、ぜひ!という気持ちで承諾しました。

―数多の編集者メッセージを読んだ森野さんを、沖垣さんのメッセージが射貫いた…ということですね。
森野:
作品を詳しく見てくれている感じがメッセージから伝わってきたので、ありがたいなと思いました。
沖垣:
「絶対一緒にお仕事がしたい」という気持ちをいかにして伝えるか考えながらメッセージを送ったので、今更ながら安心しました(笑)。
―実際にマッチングしたあとの印象はいかがでしたか。
森野:
イメージ通りの方だなという印象でした。しゃべり方もメールのままというか…(笑)。
沖垣:
(笑)。
森野:
文章から想像していた人物像と違和感なく、思い描いていたイメージそのままだったので、安心して打ち合わせできました。
会話もリードしてくださるので、沈黙が気まずいと思うことが全然ないんです。今も変わらない形でやりとりをさせてもらっているので、ありがたいですね。
沖垣:
恐縮です。
『不倫の沼』を読んで、森野さんのタテ読みマンガの経験値の高さを感じていたので、私は初対面のときに緊張していたことを覚えています。
「森野ハルナ」さんとは別名義での活動内容も伺ったのですが、その経歴が本当に素晴らしいもので…。
「すごい方がコンテストに応募してくれて嬉しい」という気持ちと、当時私はタテ読みマンガの編集者を始めて1年くらいだったので「もっと頑張らなきゃ」と、いい意味でお尻を叩いてもらったような気持ちでした。
―沖垣さんにとっては、ご自身よりタテ読みマンガの経験がある作家さんとのタッグですが…プレッシャーを感じましたか?
沖垣:
マッチング当時は、「タテ読みマンガを業界全体で、盛り上げていきたい。そのために自分に何ができるか」と考えていた時期でした。なのでやるべきことを確実にこなしつつ、森野さんから勉強させていただきたいという思いが強かったと思います。
豊富なご経験もそうですが、森野さんは作品の中でやりたいことのビジョンをしっかりお持ちだったので、ご提案がしやすいなと感じましたね。
歌舞伎町の華やかさだけでなく、キャラクターの“純粋な想い”も描きたい
―『歌舞伎町モラトリアム』の連載が決定するまでは、どんな流れだったんですか?
沖垣:
『歌舞伎町モラトリアム』は、KADOKAWAから出版している佐々木チワワさんのエッセイが原作です。タテスクコミック編集部内で、この作品をぜひコミカライズしたいという話があがりまして。

佐々木チワワ氏が実際に体験したこと、見聞きしたことをつづったエッセイ。
エッセイをそのままマンガにするのではなく、コミカライズのためのシナリオを起こすことになり、シナリオは青季ふゆさんにお願いすることになりました。
そして作画を、コミカライズにご興味を持ってくださっていて作風も合いそうな森野さんに、ぜひ担当していただけないかとご提案したのが経緯です。
―コミカライズの提案を受けたときの印象はいかがでしたか?
森野:
『歌舞伎町モラトリアム』というタイトルを見たときに「絶対やりたい!」と思いました。
歌舞伎町を舞台にした作品と聞いて、華やかできらびやかだけど闇がある…そういう表裏がある世界というイメージが湧きました。タテ読みマンガならではの表現やキャラクターの表情でそんな世界を描けたらと思って、すぐ「やらせてください」とお伝えしたことを覚えています。
沖垣さんのお話にもありましたが、コミカライズのために青季ふゆさんがシナリオを担当してくださると聞いたので、安心して取り組めました!
―タテスクコミック編集部として『歌舞伎町モラトリアム』のコミカライズの作画担当者を、他の作家さんではなく森野さんにご提案された理由は何でしょうか。
沖垣:
正直ありすぎるって感じなんですが…(笑)。
先ほどお話したように、エッセイをシナリオに起こし、さらにそれをマンガにする形なので、通常のコミカライズよりもやりとりやご相談することが多くなるだろうなと…。その分、タテ読みマンガに必要とされる画面・お話の構成の基本を把握されていて、ご自身の得意とされる表現やビジョンをしっかりお持ちの方にお願いできれば嬉しいなと思っていました。
森野さんはタテ読みマンガの経験が豊富なので、頼り切ってしまっている部分が大きいのですが…そういった意味でもすごく心強いです。
そして、この作品では歌舞伎町という街の中に確かにある“純粋なもの”を描きたいという狙いがあって。インモラルな雰囲気との二面性を表現していただける作家さんにお願いしたい、とずっと思っていました。
『不倫の沼』を読んで、森野さんはインモラルな部分を刺激的に描きながらも、その中にある人間の感情や心をしっかり表現できる方だと感じたのが、お願いしたいと思った大きな理由ですね。

どちらが本物のソラなのか、ドキドキさせられる構成。
―『歌舞伎町モラトリアム』はどのような体制で制作されているんですか?
沖垣:
佐々木チワワさんのエッセイとご提案いただくプロットを原案として、シナリオに起こしていただくところを青季ふゆさんに。シナリオをネームに起こして作画し、着彩指定を入れていただくところを森野さんにやっていただいています。
シナリオはWordで2~3枚くらいで、青季さんがセリフも含めて書いてくださっています。それをベースに、森野さんが“マンガとしての読み応え”を意識してネームに起こし、作画してくださっているので、相乗効果で面白い作品になっているんです。
森野:
ありがとうございます。
マンガに起こしやすい形でシナリオをいただけるので、スムーズにネームを起こせます。
ネームができたら佐々木さん、青季さん、編集部にチェックしていただいて、OKが出たら作画に移っています。
―打ち合わせはどのくらいの頻度でされていますか?
沖垣:
最近はメールベースでやりとりをさせていただきつつ、直接お話ししたほうがいいと思ったことが発生したときに都度お電話のお時間をいただいています。
週刊連載となると、どうしてもスピード感を持って原稿を進めなくてはならないのですが…。それを実現するためには、いかに齟齬なく効率的にやりとりができるかというのが大切になってきます。
その点において、森野さんとはまったく滞ることなくご相談ができているので大変助かっております!
森野:
私としても、沖垣さんは返信がすごく早くて、同じペースで仕事ができるのでありがたいです。
―『歌舞伎町モラトリアム』は週刊連載なんですね。
沖垣:
はい、週刊連載です!
配信開始のタイミングで第10話まで公開、その後1話ずつ週刊で更新していくために、いま森野さんにストックをご準備いただいている状況です。編集部がバタバタしている傍ら、森野さんがペースを保ってネーム制作と作画を進行してくださるので、本当に助かっています。
―スケジューリングの秘訣、意識されていることはありますか?
森野:
週刊連載はスケジュールがすべてだと思っています。
作画前にコマ数を一週間で割ってみて、1日のノルマ・作業量を把握してそれを元に着実に実行していくことを意識しています。毎日決まった時間に起きて、規則正しくノルマを実行する日々を繰り返していくことですかね。
―耳が痛い人のほうが多い話ですね(笑)。
沖垣:
本当にすごいですよね。
森野:
いえいえ、沖垣さんが相談にすぐ回答してくださるので、スケジュールを立てる時点でもうほとんどのご相談が完了している状態なんです。あとは自分のタイミングでどんどん進めていけるので、作業ペースがはかりやすいし落ち着いて取り組めています。
沖垣:
ありがとうございます。
現在は、かなり先のお話まで先行してネームに着手しつつ作画を進めていただくという、高度なことをやっていただいています。
その分、ネームの作成をしてから、実際に作画に入っていただくまで少し時間が空くので、確認や改良に時間をかけられるんです。
効率よくスケジュールを立てて作業していただいているおかげで、作品の完成度を上げることもできているので、本当にありがたいですね。
「別世界」ではない、歌舞伎町を舞台にした物語づくり
―『歌舞伎町モラトリアム』のネームを拝見したとき、無垢な女子大生が歌舞伎町に足を踏み入れていく描写のリアルさにハラハラしたのですが、冒頭のモノローグのおかげで安心して読み進められました。

「真実の愛を探した」という表現にわずかな安心感を抱いた。
沖垣:
すごく嬉しい感想です!
実はそのシーン、第1話の中で一番最後に完成した部分なんです。やっぱり冒頭で読み味が変わるよねという意見があって、最後まで悩んで追加したところで…。
この部分を純度高く、ひとつひとつの言葉が響くような画面構成と、美しい作画でまとめていただいたことで、歌舞伎町という言葉から連想される固定観念に引っ張られすぎずに、この作品の“軸”が伝わりやすくなったと思います。森野さんのお力の賜物です。
森野:
ありがとうございます。
一人の女子大生を中心に物語が動いていくので、心情が伝わるように気をつけて描いています。ストーリーの核になる“感情”を、どう効果的に伝えるかというところをシナリオを読みつつネームに起こしています。
沖垣:
もともとエッセイだったものにキャラクターを立てているので、そのキャラクターの言動がいかに読者の方に共感してもらえるかというのはすごく大事だと思っています。
森野さんがしっかりとした軸を持って、シナリオをもとにマンガとして昇華してくださるので、受け入れてもらいやすくなっていると感じます。
―確かに、登場人物それぞれに個性があって惹きつけられました。
キャラクターを描くときに気を付けていることはありますか?
森野:
主人公の優衣は基本的に慎重な性格なので、繊細な心の動きを表情や仕草で表現できるように意識して描いています。
特に服装や髪型はこだわっていますね。モラトリアム真っ只中にいる優衣が、周りの影響をうけつつ変わっていくのが外見でも伝わるように、毎話ごとに服装や髪型を変えています。

ソラに会いに行くための服を買いに行く優衣。
次話でスタイリングした優衣にも注目していただきたい。
ソラは、誰が見ても「イケメンだ!」と思ってもらえるように、すごく気を遣って描いています。
メインのキャラクター以外でも、今の歌舞伎町やホストクラブにいそうだな、と思ってもらえるように、意識して描き分けています。
私ひとりでは実際の様子がわからない部分もあるのですが、佐々木さんの丁寧な監修や送ってくださる資料にとても助けられています。
―優衣の感情を軸に物語が展開していく…というお話でしたが、感情の起伏を絵で表現するのって難しいですよね。
森野:
難しいですね。
これまでの連載作品で描いてきた「復讐モノ」では登場人物の感情の振れ幅は大きく描くことが多かったのですが、『歌舞伎町モラトリアム』は細かい感情の起伏が主な作品です。リアルな側面は残しつつマンガとしての面白さの表現と、どうバランスを取って緩急をつけるか…毎回悩みながら描いています。

ソラの“被り”と初対面。優衣の表情・コマの表現で、心情が伝わってくる。
そんな時に、自分一人では表現が偏ってしまうところを、沖垣さんが「こういうのはどうですか?」と提案してくれるので、すごくありがたいです。
担当についていただいてから、自分の中で表現方法のバリエーションが増えたと感じています。
―では最後に、『歌舞伎町モラトリアム』のおすすめポイントを教えてください。
森野:
作品の舞台である“歌舞伎町のホストクラブ”。私にとってもなじみのない新世界なので、毎話勉強になることも多く、悩みつつも楽しみながら描き進めています。
ネーム兼作画担当としては、作品の持つ刺激的でリアルな部分と繊細な心理描写をうまく伝えられるように間の取り方や、影や効果の入れ方、含みのある表情の描き分けにこだわっています。
読者の皆様には、ホストクラブを軸にした人間模様をリアルに体験しているようなドキドキ感を少しでも味わっていただけたら嬉しいです!
沖垣:
多くの読者さんにとって未知であるけれど、実はとても共感できることが多い歌舞伎町という世界に、タテ読みフルカラーの美しく鮮やかな画面を通して没頭してもらえましたら嬉しいです!
歌舞伎町で出会った優衣とソラがどうなっていくのか…二人をはじめとして、森野さんの美麗なタッチで描かれるたくさんの魅力的なキャラクターたちの変化にぜひ注目してください!
―お二人とも、連載前のお忙しいときにありがとうございました。
森野:
こちらこそ、ありがとうございました。
沖垣:
ありがとうございました!
『歌舞伎町モラトリアム』は、LINEマンガにて先行配信開始!
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