【転生チートでぶち壊す異世界ドラフトライフ】綾羽光陰×担当編集対談
綾羽光陰
あやばね こういん / Koin Ayabane
『転生チートでぶち壊す異世界ドラフトライフ』作者
ゲームクリエイターズラボ第一期生。その正体はアーカムホラー第二版にどハマりして非電源ゲーム沼に沈んだ魔術師。システムやメカニズムを分析するのが好き。
一番やり込んだゲームは『アンドロイド:ネットランナー』。好きなジャンルはSFやホラー。魔術や占いの仕組みに関するnoteを更新中。
鈴木隆介
すずき りゅうすけ/Ryusuke Suzuki
講談社ゲームクリエイターズラボ 担当編集
『転生チートでぶち壊す異世界ドラフトライフ』担当編集。講談社第四事業局クリエイターズラボ所属。
「週刊少年マガジン」「モーニング」等で漫画編集者として働き、現在に至る。
好きなデジタルゲームは『女神転生』シリーズ・『大神』、アナログゲームは『モノポリー』・『あやつり人形』。
ボードゲーム界の「ダイヤの原石」がやってきた!
――まずはじめに、綾羽さんがGCL第一期募集に応募した経緯を教えてください。
綾羽 やっぱり半年で500万円、2年で2000万円という資金面でのサポートが魅力的でした。これに選ばれれば、本当に作りたかったゲームが作れると思ったんです。僕は普段、ゲームマーケット(※1)というイベントで自作のボードゲームを売っているんですが、入っているサークルのコンセプトが”お金をかけずに面白いゲームを作る”でして。だから、「予算の都合でボツです」という理由ではじかれたアイデアがたくさんありました。
(※1)ゲームマーケット=国内最大級の非電源ゲームイベント。年に3回(東京で春と秋、関西方面で冬)開催されている。出展者が製作した様々なジャンルのボードゲームやカードゲーム、テーブルトークRPG、シミュレーションゲームなどが販売されている。
鈴木 綾羽さんの応募作品を見たとき、天才がやってきたと思いました。まさにゲームクリエイターズラボが必要としている「まだ世間に発見されていないダイヤの原石」を見つけたような思いでしたね。
綾羽 ありがとうございます! 僕自身死にそうな生活をしていたので、一発逆転のチャンスを狙っていたところでして……。
――……そこ、もうちょっと深掘りしてもいいですか?(笑)
綾羽 実は転職に2回失敗して貯蓄が尽きてしまい、転職の活動費もままならない状態が続いていたんです。そんな事情もあって、警備員の仕事などをしながら、その日暮らしの生活をしていました。
――ゲームクリエイターズラボに起死回生の大勝負をかけていたと。
綾羽 はい。でも、いざ試作品を宅配便で送ろうとした時にお金が足りなくて……。駅でパスモを解約して得た500円でなんとか送りました(笑)。その日は晩御飯が食べられなくて、泣きながら寝たのを覚えています(遠い目)。
鈴木 そこまで身を削ってゲームを作っていたなんて、初めて知りました……。
「異世界転生」×ボードゲーム
――それでは、GCL第1期生作品に選ばれたボードゲーム『転生チートでぶち壊す異世界ドラフトライフ』について教えてください。
綾羽 『転生チートでぶち壊す異世界ドラフトライフ」は、「異世界転生」(※2)系のストーリーテリングをカードゲームに落とし込んだ新感覚ドラフトゲームです。冒険者がミッションをこなしてスキルを身につけていくシンプルなルールになっています。
(※2)異世界転生=主人公が現実世界から異世界に渡り、手に入れたチート能力で無双するジャンルのこと。
―――「異世界転生」とアナログゲームを組み合わせるという異色の発想に心が惹かれました。「異世界転生」ラノベや漫画を読んだときに感じる「俺TUEEE!」感がゲームデザインの中に盛り込まれていて、かなり爽快感があるプレイ感覚になりそうだなと思って。
綾羽 ありがとうございます。そこはかなり意識的にやってました。「異世界転生」特有の、チート能力(※3)を使って無茶苦茶なことをする気持ちよさを追求したかったんです。でもそれだとゲームバランスをとるのが難しいので、お互いが自分の持っているチート能力をぶつけ合うようなゲーム性にしました。
(※3)チート能力=漫画やアニメなどのキャラクター設定において、チート(不正改造)と思えるほど圧倒的な力のこと。
鈴木 この話だけでも綾羽さんのゲームシステムへのこだわりが伝わってきますが、スゴイのはこれだけではありません。というのも、『転生チート〜』の他にもコンセプトの違う試作品を2つも送ってきてくれたんです。そんな人は他にいませんでしたね。僕はどちらかというと、アナログゲームをオリジナルのシステムで作るのはかなりハードルが高いと思っています。でもそんな中、綾羽さんからぽんぽんと作品が送られてきて、しかもどれも甲乙つけがたい。この人とんでもないな……って思いました。
異色の経歴
――ところで、以前は特許事務所にお勤めだったとか?
綾羽 そうなんです。特許を取得する際は、何かと何かを組み合わせることでどんなシナジーがあるのか、オリジナル性があるのか説明できなければいけないんです。
鈴木 それって、新しいゲームシステムを考える事と似てますね。
綾羽 そうなんです。オリジナリティの追求は、ゲームを構築する中で大切なフェーズの一つです。そういった意味でも、特許事務所で学んだ仕事はかなり役立っています。
――なるほど! そこもゲーム作りに活かされているんですね。
綾羽 はい。特許の説明書は、ほとんどゲームの説明書みたいなものですから(笑)。でも、業務の効率化を自分なりに推し進めた結果、上司から仕事をしていないと勘違いされてクビになっちゃって……。
鈴木 せっかく効率化したのに!?
綾羽 例えば1日8時間労働の中に、一定数のノルマがあるとします。効率よく仕事をこなして、その半分の4時間ですべてのノルマを達成してしまった場合、残り4時間は何もすることがなくなってしまうんです。
鈴木 なんと……!システムの欠陥を発見してしまったんですか。
綾羽 ええ、ゲームで言えば完全にバグですね。時間で区切って労働させるんだったら、ノルマを設定させる必要はない。その逆もまた然りですから。
鈴木 こういうところに、綾羽さんらしさが出ています(笑) この世のあらゆる事象をゲーム的に解釈していて、どうすれば効率的にクリアできるかを追求する姿勢に痺れちゃいました……!
綾羽 人生において、いつもRTA(※4)をやっている気持ちで生きてますので!
(※4)RTA=リアルタイムアタック(Real Time Attack)というゲームのプレイスタイルのこと。ゲーム開始からクリアまでにかかった実時間の短さを競う。
一同 (笑)
人間の感情を分析してゲームを作る
――面白いゲームを作るための独自メソッドがあるとお聞きしたのですが……。
綾羽 そうですね。ゲームを作る時はいつも、プレイヤーがどんな感情になるのかを考えながら作ってます。
鈴木 綾羽さんはプレイヤーの感情曲線をコントロールするのが本当に上手いんですよ。
綾羽 僕は面白さに繋がるまでに3つのステップがあると考えています。 まず1つは“予測”すること。ゲームをプレイしてみて、今後どうなるのかなっていうのを想像すると、人は面白さを感じるんです。何をやってるのかわからなかったり、どう動かしたらいいのかわからなくなってしまうゲームは、その時点で失敗なんです。
――なるほど。それではあと2つは?
綾羽 “実行”です。予測に対してアクションを起こす。予想通りになるか検証することで、脳は興奮して喜ぶんです(笑)。そして最後に、“確認”することが重要なんです。予測と一致していたかどうか。そこで予測とずれた部分があると、これまた脳が喜ぶ。 人間の心の構造と機能について知ることも、ゲーム作りには必要なことだと思っています!
鈴木 綾羽さんは面白さの構造を把握して、製品に落とし込めることが強みだと思います。また、新しいゲームデザインを量産することも得意で、生産性もある。クリエイターとして全方面から支援したいという気持ちは出会ってからずっと抱いてます。
綾羽 ありがとうございます!でも、僕はどちらかというとイノベーターというよりもデベロッパー気質なので、何もないところから新しいものを作るのは得意ではないんです。既存のものを改良して、組み合わせることによって全く別のものが出来上がると考えています。
編集との二人三脚
――担当編集の鈴木さんの目から見て、『転生チートでぶち壊す異世界ドラフトライフ』の印象はどのようなものでしたか?
鈴木 しっかりコンセプトも考えてあるし、きちんとやりたいことがゲーム性まで落とし込まれていてスゴい。ただ、試作品の時点ではルールが複雑すぎてプレイするまでのハードルがかなり高く感じたんです。世に広く受け入れられるために、そのハードルを少し下げるための提案をさせてもらいたいなと思いました。
――それは綾羽さんにとっても心強いですね。ちなみに、改良はどのように進んでいるのでしょうか?
鈴木 一例を挙げると、このゲームはなんで複雑に見えてしまったかというと、プレイヤーに提示される情報量がとても多いんです。なのでカード自体を工夫して、プレイしていく中で見るべきところ、見なくていいところを一目でわかるように改善することを提案しました。
綾羽 この指摘はメチャクチャありがたかったです。一人でゲームシステムを作っていると、どうしてもユーザー目線の部分が欠けてしまいがちなので……。
――おお、わかりやすさが全然違いますね! 尖っているものを、ユーザーに伝わりやすい形へと研磨していくのが編集の仕事だということでしょうか。
鈴木 はい。毎回打ち合わせは白熱していますよ!
綾羽 打ち合わせを重ねる中で、編集者がサポートしてくれるのは自分の中ですごく心強く感じると同時に、自分の足りていない部分を認識できました。宣伝のやり方がわからない、 イラストが描けない、 ストーリーが書けない、 財力がないっていうウィークポイントを、鈴木さんと相談することで補完していっています。
鈴木 そうですね。クリエイターの得意なところ、サポートしてほしいところを共有することで、我々がお手伝いできる方向性もはっきりしますから。これからGCL第2期募集に応募しようと検討中の方も、自分の強みはどこなのかをどんどんアピールしていっていただきたいですね。
――本日はありがとうございました。
『転生チートでぶち壊す異世界ドラフトライフ」は2022年4月に全国書店で発売予定です。異世界転生とボードゲームが組み合わさった異色のアナログゲームとなっておりますので、是非ご期待ください!