ゲームの“出張添削”って何!? 講談社ゲームクリエイターズラボが実施する、学生が制作中のゲームをチェック&総括する画期的な試みを取材した!
ゲームクリエイターを目指す若者に貴重な機会を!
2023年3月17日--。
ゲームエッセイスト兼ファミ通の元編集者兼シナリオライターのワタクシ、大塚角満は、東京都の恵比寿にあるクリエイターを育成する学校、アミューズメントメディア総合学院にいた。講演を頼まれたわけでもシナリオ科の授業に呼ばれたわけでもなく(当たり前だが)、ここ最近、取材や情報交換などをさせてもらっている講談社ゲームクリエイターズラボの平田京市郎さんから、
「ゲームクリエイターズラボとしては初となる試みを実施するので、見に来ませんか?」
と声を掛けられ、のこのこと出向いてきたのである。というのも、ざっと内容を聞いた瞬間に、
「!!! それはじつにおもしろそうじゃないですか!!!」
とゲームジャーナリスト魂に火が付き、居ても立っても居られなくなって、場違いとも思える学校に足を運んだというわけだ。
そんな、未来を夢見るゲームクリエイターのタマゴが集うアミューズメントメディア総合学院で何が行われたのかと言えば……!! ズバリ!!
“ゲームクリエイターズラボinアミューズメントメディア総合学院 ゲーム出張添削”
という試み!!
ゲームクリエイターや、その業界を目指す人のためのコミュニティを展開する株式会社STANDとの合同開催とのことで、この日は同社が運営する“ゲームクリエイター甲子園”に関するプレゼンも生徒たちに向けて実施されていた。そういう意味でも、ゲーム業界を目指す若者たちにとっては非常に有意義なイベントと言える。そして取材する我々も……この文字面を見てしまったら、ゲーム業界に身を置く者としてワクワクしないわけがない!!
具体的な内容は、アミューズメントメディア総合学院の生徒がチームで制作している未完成のゲームをプレゼンし、講談社ゲームクリエイターズラボのおふたり(先の平田さんと同僚の鈴木隆介さん)が審査、フィードバックをするというもの。サブタイトルに“出張添削”とある通り、講談社で長年編集者として勤めてきたおふたりが、まるで持ち込みマンガのチェックをするかのように“公開添削”を行うという画期的なイベントなのである。
このイベントの背景にあるのが、講談社ゲームクリエイターズラボが実践している、インディーゲームクリエイターの発掘と支援を行う大規模なプロジェクトである。
「1000万円差し上げますから、好きなゲームを作りませんか?」
というキャッチコピーで話題になっているのでご存知の方も多いかと思うけど、講談社ゲームクリエイターズラボでは年に4回という高頻度で門戸を開き、ゲームの企画を大募集。寄せられた応募の中からキラリと光る企画に白羽の矢を立て、前述の“年1000万円”という開発費を提供してゲーム開発を支援しているのである。この取り組みは、個人やチームでコツコツとゲームの企画を練っているクリエイターたちから注目され、回を追うごとに応募数も内容も洗練されてきている。
そして、今回のアミューズメントメディア総合学院での出張添削にも紐づくことなんだけど、講談社ゲームクリエイターズラボにおけるもっとも特徴的な支援方法が“ラボのメンバーが編集者となってゲーム開発に寄り添う”というものだ。講談社で長く培われてきたマンガ編集のノウハウをゲーム開発に応用し、“1ゲーム企画に1編集者”という二人三脚の手法を導入してゲーム開発を実践しているのである。講談社ゲームクリエイターズラボではマンガと同様、ゲームの持ち込み企画・フィードバックも積極的に行っているので、こういったゲーム制作を教える学校に赴いての添削はまさに打ってつけというわけなのだ。
……という前提のもと、3月17日に行われた出張添削の模様を見ていきたい。ちなみに、学校を舞台にしたこういったイベントは今回が初めてとのこと。果たしてどんなプレゼンが行われ、どのような“返し”が飛び出すのか……? 30年にわたってゲーム業界を追い掛けてきた筆者にも初遭遇のイベントだったので、開始前からワクワクが止まらなかったことは言うまでもない。
冒頭、前出の鈴木さんから、講談社ゲームクリエイターズラボの取り組みについての説明がなされる。
講談社ゲームクリエイターズラボでは現在、20作品以上(!)に及ぶゲーム企画に支援を行っており、「この数はマンガ雑誌1冊を構成できる本数に等しい。我々は“ゲーム編集部”を目指している」と鈴木さんは力説。ここにも、マンガ編集で培ったノウハウを活かしてゲーム開発を……という講談社ゲームクリエイターズラボの狙い、本質が見え、この発言を聞いた瞬間に学生たちの目に力が入ったのがよくわかった。
というわけで、出張添削がいよいよスタート。
この日は、アミューズメントメディア総合学院のゲーム制作授業で開発を行っている11チームがプレゼンを行う予定で、イベント時間は3時間にも及ぶ。生徒が実際のゲーム画面やプレイ風景、企画書を用いてプレゼンを行ったのち、鈴木さんと平田さんが所感やアドバイスを述べる……という流れになっていた。
さすがにそのすべてを紹介するわけにもいかないので、1例だけ。山形出身の学生がリーダーを務めるチームが制作している3Dシューティングゲームを見てみよう。
これ、初っ端のプレゼンだったんだけどアイデアがすばらしく、全11作品の中で(個人的に)もっとも印象に残った企画だった。
企画の発端は、山形県の伝統行事である“芋煮会”。「その際に行う芋を引っこ抜く作業をゲームに盛り込みたかった」ということで、なんと操作するヘリコプターで敵の大砲、砲台をムリムリムリ……と抜き去り(!)、自分の武器として使ってしまうというぶっ飛んだゲームになっていたのである。
プレゼンでは、弾丸飛び交う3Dのステージでヘリコプターを操作し、砲台を引っこ抜いて敵を殲滅する……という過程が実機プレイで紹介された。
5分ほどの企画説明を受けたのち、感銘を受けた鈴木さんと平田さんからつぎつぎと質問が飛び出す。平田さんの「この斬新な世界観は、何をヒントに思いついたのか?」という問いに対し制作チームは、「ヘリコプターが水を散布する映像を見て、引っこ抜いた大砲を自分の武器として使用するというアイデアを思い付いた」と回答。鈴木さん、平田さんは大きく頷き、つぎのようなフィードバックを返したのだった。
「アイデアがすばらしく、完成度の高い企画だと思いました。そのステージでどんな武器を抜くことができるのか、事前のナビゲートなどを盛り込むとさらに遊びやすくなると思うので、プレイヤーに“予感させるための導線”を考えるといいと感じました」(鈴木)
「つぎつぎとアイデアを付け足したくなる、非常におもしろいゲームだと思います。たとえば固定砲台だけじゃなく、飛んでいる敵からも武器を引っこ抜いてしまうとか。いろんなバリエーションを盛り込んでいくとステージ構成に幅ができると思うので、さらに煮詰めてほしいと思います」(平田)
そのやり取りはまさに、マンガ家が作ってきたネームのチェックをする編集者……という感じ。思わず、
「これは新しいゲーム制作の形だなぁ……!!」
と、見ているこちらが感銘を受けてしまった。
その後もゲームのプレゼンは続き、学生たちからも、「シナリオを画面に表示させるときの適正な文字数が知りたいです」とか、「ホラーゲームの斬新な演出方法のヒントをください!」などなど、かなり突っ込んだ質問が講談社ゲームクリエイターズラボのふたりにぶつけられていた(ちなみに前者の質問に対しては鈴木さんが、「映画の字幕を参考にするといいと思います」と回答。「ナルホド!」と筆者が頷いてしまった)。こういった実用的なキャッチボールが行われるのも出張添削の醍醐味のひとつで、改めて、
「じつにいいイベントだな!!」
と感心させられたのであった。
平田さんによると、
「初めての試みでしたが、非常に有意義な時間を過ごすことができました。新たなクリエイターの発掘にもつながりますし、学生たちの熱意を直で感じることができます。こういった機会を今後も増やしていきたいと思っているので、その際はぜひ、多くの学生さんに参加してほしいと思います!」
とのことなので、ゲーム制作の学校に通っている人は、講談社ゲームクリエイターズラボの情報を要チェック! ゲームクリエイターになるための入り口のひとつとして、いい意味で利用していってもらいたいと強く思いました!
講談社ゲームクリエイターズラボは、4月30日(日)に銀座で開催される「Indie Games Connect 2023」に出展し、学生・若手ゲームクリエイター向けのセミナーを開催するとのこと。講談社ゲームクリエイターズラボの取り組みに興味を持った人は是非こちらもチェックしてみてほしい。