なんで出版社がメタバース? その疑問に編集者が答えます! 【完全版/THE Lab.座談会】

なんで出版社がメタバース? その疑問に編集者が答えます! 【完全版/THE Lab.座談会】

クリエイターズラボ広報誌『THE Lab.』vol.05に掲載されたメタバースラボ3人による座談会の完全版を公開! 私たちがメタバースで実現したいことを語り合いました。

新しいテクノロジーを使って、①ヒットコンテンツ、②スタークリエイター、③ムーブメント、いずれかを実現することを目標に、新世代のクリエイターさんたちと一緒に進んでいきます。

定義が曖昧なメタバース

――メタバースってなんのことなんだろう?

佐川 「三次元空間すなわち3DCGで再現されたオンライン上で繋がるバーチャル空間」、と言われることが多いです。インターネットの延長線上にあって、誰もが自由に創作活動をして誰もが自由に交流できる、そんな体験を世界中が期待しているし、きっと“ふつう”に来る未来。

織田 僕にとっては「みんながフラットになる世界」でしょうか。今までGoogleとかAppleのような大企業が“社会”をつくってきたけど、全員が3Dで平等につながれる非中央集権的な世界がメタバースなんじゃないかと感じています。

酒井 世界的にもまだ定義がバラバラですよね。いろいろなコンテンツを体験した結果、メタバース空間にこだわらず広く新規事業に取り組んでいくことがメタバースにつながるっていう捉え方をして臨んでいます。

佐川 メタバースとは何かということと、出版社がやる意味の両方にかかってくるんですが、メタバースと出版社は親和性が非常に高いと思っているんです。

VRとかテクノロジー的な話ではなく、「メタ」というワードがカギになると考えているんです。メタバースって、非常に「漫画的」だな~、と。

XR、メタバース、Web3.0の考え方(メタバースラボ解釈)

出版社が参加する意味はどこに?

佐川 仮想空間の考え方には大きく分けて「スーパーリアリティ」と「メタリアリティ」の2つがあります。「スーパー」 は“超高”臨場感で、めちゃくちゃ現実=本物に近いものを再現するというもの。歴史的建造物を忠実に再現したり、誰もが知っている街をそのまま3Dにしたり。

一方の「メタ」は現実に忠実ではないけれど、ちょっと過剰に演出することでユーザーにとってはリアルよりも“いい体験”ができる、“超越”臨場感と言いますが、これって非常に「漫画的」だと思うんです。

超高臨場感(Super Reality)と超越臨場感(Meta Reality)の違い

――たしかにまさに講談社がやってきたこと……

佐川 現実世界と同じ体験ではなく、演出や表現の仕方を振り切ることによって、より迫力があって、感情が揺り動かされる体験をユーザーにしてもらえるというものが「メタ」。

織田 パンチする手が大きく見えたり。

佐川 そうそう。だとしたら、そのような作品をたくさん作ってきた経験が講談社にはあるし、テクノロジーさえ追いついてきたら、そういうものをつくりたいクリエイターさんと編集者はいるはずなので出版社との親和性はかなり高いんじゃないか、とずっと考えています。

酒井 漫画だけでなく、私が作っている児童書、ファンタジーとの相性もすごくいいですよね。

織田 上司からは「世界をちょっと良くするものをつくってよ」と言われました。いままで取り組んできた「おもしろくて、ためになるコンテンツ」を出版という方法に限らずやっていこう、っていうのが会社としてやる意味なのかもしれません。

子どもの想像力を刺激するような空間を

織田 メタバースラボは2022年の6月に発足しましたが、もともと児童書籍の販売部にいた僕にとっては、異動の内示は晴天の霹靂でした。席に戻って、すぐにググって「メタバース」と調べたり、解説動画のメタバース講座を受けてみました(笑)。

酒井 私も子ども向けの書籍の編集をやっているのですが、最初はどんな関連性があるんだろう…?と、驚きました。「ど、どういうこと!?」って(笑)。でも、みなさんの話をきいてみて、子ども向けのコンテンツとメタバース空間はすごく相性がいい、というのは理解できました。

たとえば、恐竜をメタバース空間に表示した時に、子どもたちがその空間に没入すれば、リアルサイズで恐竜の大きさを体験できる。それって教育的文脈ではすごく大切なことなんです。

織田 さっきの分類でいうと、「スーパーリアリティ=超高臨場感」のほうだね。

酒井 他にも、たとえばARのテクノロジーを使って、サイズや色も実写的に再現されているリュウグウノツカイを机の上に表示しながら、魚の図鑑で勉強するということも考えられます。

佐川 魚の形状や動きをより直感的に理解できるかもね。それだけではなく「俺が考えた最強のリュウグウノツカイ」みたいな感じで、自分でアレンジしたリュウグウノツカイを作れるのも面白いと思います。

酒井 そうなんです!そのほうが想像力をかきたてられます。

佐川 講談社は想像力をかきたてる物語を広めてきた会社なので、そういう新しいインスピレーションを提供する企画のほうが講談社ぽいなと思います。そうやって新しいクリエイターさんがどんどん誕生してくるサイクルを作れるといいなと。

織田 僕たちがやるなら「水族館」の再現ではなくて、誰かが描いた空想の魚と本物の魚が共存できる水族館を目指したいんです。未来のクリエイターである子どもたちの知育的な部分において、メタバースはかなり有益じゃないかと思っています。

酒井 大人になればなるほど、自分で枠組み、限界ラインを決めちゃうけど、子どもたちは自由だから、より面白いものが生まれます。

私の部署には、子どもたちに大人気の『おばけずかん』というシリーズがあるのですが、メタバース空間でただ「おばけが出てきます」「本が読めます」じゃなくて、「自分だけのおばけをつくって一緒に遊ぶ」とか「おばけ同士が仲良くなる」ほうがぜったいに楽しいはず。

佐川 イラストもCGも音楽もあっていいし、魚と恐竜とおばけが戦ってもいい。そういうカオスを許容する空間がまさにメタバース的だと僕は感じます。

現実世界の私も、Twitter上のわたしも、イラストや3DCGの自分もぜんぶいて良くて、それらを自由に使い分けながら、オンライン上でコミュニケーションできる……。そんな未来をみんなが希望しているような気がします。

織田 アバターの自分のほうが自分らしい、という人もいるかもしれません。さっきフラットな世界がメタバースと言いましたが、もっと拡張した自分もフラットに存在する世界ですね。

新世代クリエイターと出会って

佐川 2人とも、異動してきてからクリエイターさんにはたくさん会ったよね?

織田 はい! 本当に素晴らしい才能を持った方々ばかりです! 今の時代、マルチクリエイターというか、イラストから動画、CGまで一人で表現できてしまうクリエイターさんがたくさんいるんです。しかも、みんな10代20代で僕より若い(笑)。

酒井 テクノロジーの進歩を実感しますよね。たとえば、3DCGクリエイターコンテストを開催する上で感じたことですが、CGの世界は新しく入ってこようとする人たちにとってもやさしいんです。新規参入を歓迎する空気感がある。びっくりするくらい多機能なソフトが無償で提供されているし、YouTubeでハウツー解説している人も他ジャンルと比べて多い気がします。

織田 いい話だね!!

酒井 出来上がったものの見た目はハードル高そうに見えるのに、始めるハードルは低いんです。

佐川 テクノロジーが発達して、イメージした世界観を一人で創造することが可能になったのだと思います。それに伴ってイラストや映像などでも今までになかった新しい表現が増えてきている気がします。

僕は映像クリエイターさんが好きでさまざまな作品を見ていますが、表現も変わってきているなと。映画ともアニメともいえない作品や、図形や文字を気持ちよく動かすモーショングラフィックス、ドット絵が動くチルっぽい作品などなど。YouTubeの影響が大きいのかもしれません。

織田 YouTubeをやるならオープニングのジングルをつくらなきゃいけないし、テロップも動かしたくなるし、インサート、音もつくらなきゃいけないし……と全部やりたくなりますもんね。

酒井 いままで会ってきた画家さんとか作家さんとも、服装や雰囲気も少し違う気がします。そうした人たちが感じる「かっこよさ」の文脈を、いま必死に手繰り寄せようと勉強しているところです。

佐川 「メタバース is インターネット」と表現する人もいますが、メタバースが新しい表現が誕生する場になっていくといいなと思います。インターネットがネット文化を生んだように、YouTubeが動画クリエイターを後押ししたように、メタバースから新しいクリエイションが大量に生まれる。考えるだけでワクワクします。

とにかく「ワクワクする企画」を

――その世界をもっと大きくするのに必要なものは?

佐川 複合的な要素が必要なんだと思います。なにより人を集めることが大事だなと。メタバースに関わる人がまだまだ足りなくて、人を集めて皆でもっといいものをつくって盛り上げていきたい。そのための方法のひとつは「スタークリエイターが誕生すること」なのかもしれません。この人みたいになりたい、というクリエイターさんが生まれることなんじゃないかと想像しています。

酒井 CGにしても、まだゲームや映画などのコンテンツの一部のように「手段」や「ツール」のように捉えられることも少なくありません。そうじゃなくて、漫画のように独自のジャンルとして確立されればCGの世界も変わると思うんです。それがモーションなのか、キャラクターなのかはまだわかりませんが、生み出せるクリエイターさんを見つけて一緒につくりあげていきたいです!

織田 技術的なハードルが下がった分、さっき言ったように世界観を1人で表現できるクリエイターさんが増えてきました。そういった方々が集まってなにかつくるときに求められるのは「熱量とアイデア」なんだと思います。「こういう世界をつくりたい!」「クリエイティブで他の誰かを刺激したい!」という熱量を、編集者としても持ち続けたいです。

佐川 プラットフォームとコンテンツを生む力、両方の視点からメタバースを捉えて、クリエイターさんをサポートしていくことで、一緒に新しい作品を生み出していければと思っています。

僕たちは、編集者としてクリエイターさんと共に「純粋に面白いコンテンツ」「ワクワクする企画」をたくさんつくるので、そのコンテンツ力に興味を持ってくれるテクノロジー企業さんと、手を組んでチームになりたいと考えています。

すでに5つほど企画も進んでいるので、みなさんにお披露目できる日が待ち遠しいです。お問い合わせ、ご提案、たくさん待ってます!!

佐川/メタバースラボチーム長。週刊誌、Webメディア編集を経て現職。学生の頃、VR・ARの研究をしていました。

織田/入社6年目、以前は児童図書の販売局に在籍。「スマホから本に戻ってきたくなる」コンテンツを模索中。

酒井/入社5年目、児童向け書籍の編集部と兼務。「クリエイターさんの表現の余白を引き出せる」企画を作りたい。