講談社ゲームクリエイターズラボが新たな段階へ! GCLAの“常時募集”と新設した“フェロー”の狙いは? プロジェクトチーフの片山が語る

講談社ゲームクリエイターズラボが新たな段階へ! GCLAの“常時募集”と新設した“フェロー”の狙いは? プロジェクトチーフの片山が語る

聞き手/大塚角満

発展的なリニューアルを敢行

 「年間最大1000万円差し上げますから、好きなゲームを作りませんか?」

 この謳い文句が特徴のひとつである講談社ゲームクリエイターズラボ。

 インディーゲームクリエイターに“担当編集者”を付けるという、講談社が出版社として培ってきたノウハウを最大限に活かすために構築したシステムで、制作支援やパブリッシング、メディア展開などなどさまざまな分野において包括的な伴走を行う取り組みである。

 2020年9月の発足以来、新たなインディーゲームクリエイターを発掘するためのオーディション“GCLA(ゲームクリエイターズラボオーディション)”は5度にわたって実施されてきた。応募総数は延べ3000件を超え、現在はその中から選ばれた24組が“ラボメンバー”となって、担当編集者と二人三脚でゲーム開発に取り組んでいる。今年2月にSteamでアーリーアクセスが始まった『違う冬のぼくら』の販売本数が2万5千本を突破するなど、徐々にその取り組みが形になり始めてきた。

 そんな講談社ゲームクリエイターズラボが2023年5月1日にリニューアルを実施し、新たなシステムと支援策を打ち出した。

 これまで、3ヵ月ごとに実施されていたGCLAを“常時募集”にした理由は? 新設された“フェロー”とは? 講談社ゲームクリエイターズラボの片山裕貴プロジェクトチーフに話を聞いた。

より、間口を広げるために

--講談社ゲームクリエイターズラボはこれまでに5回のオーディションを行い、現在は24組がラボメンバーとなってゲーム制作を行っているわけですよね。

片山 改めて、これまでの流れをご説明します。コンテストは当初、1年に1回のスパンで実施していました。それを第1期、第2期と我々は呼んでいるんですけど、その後にリニューアルを行って新たに“GCLA”という名称にしたんです。その際に募集の頻度を1年に1回ではなく、3ヵ月に1回としました。これは、「年1回だと、応募し忘れただけでまた1年待たなければいけない」という声をクリエイターさんからいただき、確かにもっとスピード感のあるサイクルを作ったほうがいいなと我々も考えてリニューアルを行ったものです。GCLAになってから、すでに3回の募集を行っております。

※講談社ゲームクリエイターズラボのこれまでの歩みを振り返ると、2020年9月にスタートしたこのプロジェクトでは、2年半の活動期間で5度にわたるメンバー募集を実施している。「1000万円差し上げますから、好きなゲームを作りませんか?」というコンセプトのキャッチーさと、講談社の編集者が“担当編集”としてクリエイターに寄り添うという斬新なシステムは話題を呼び、これまで合計で3000件を超える応募を数えている。

そして現在、24組のインディーゲームクリエイターがラボメンバーとなり、前述の「好きなゲームを作りませんか?」という謳い文句通りに、担当編集と二人三脚で開発を行っているのである。

--3ヵ月に1回というサイクルもかなり目まぐるしいものだと感じますが、2023年5月のリニューアルでは、これをさらに加速させるわけですよね。

片山 そうですね。より高速化させて“常時募集”という形を採ります。

--その狙いを教えてください。

片山 まず単純に、インディクリエイターさんにとっては常時募集がもっとも取っ付きやすいだろうな……と考えたことが大きいです。3ヵ月に1回もかなりの頻度だったとは思うんですが、それでも1回逃すとつぎの募集まで3ヵ月も待つ必要があります。そのタイムラグを埋めるには我々のほうで「いつでも受け付けていますよ」という姿勢を鮮明にし、クリエイターさんたちにお知らせするのがいちばんだと判断したわけです。

--なるほどなるほど。

片山 もうひとつ、新しい柱の“フェロー”という制度に関わってくることなんですが、これまでのやり方というのはマンガにたとえると“連載作家さんを募集します”というスタンスだったんですね。選出された瞬間に担当編集がついてパブリッシングまでお供しますよ……という体制だったわけですけど、これは人によってはハードルが高すぎるコンテストに見えていたのでは……という反省も付きまとっていました。マンガや小説のコンテストって、賞を獲ったからといってすぐに連載が始まるなんてこと、ほとんどありませんよね。受賞後に担当編集と打ち合わせを重ね、連載会議を通って初めて連載を勝ち取る……というパターンなわけですけど、ゲームクリエイターズラボでも同じように、伸び盛りのクリエイターさんにしっかりと伴走できるシステムを作って、ともに歩んでいきたいと考えました。そこで作ったのがフェローという枠になります。簡単に言うと、“連載準備中の作家さん”ですね。

--それもあって、常時募集に切り替えられると。

片山 そうですね。フェローと担当編集者がいっしょに育っていく体制を作れたらいいなと考えた結果、常時募集という速度がいちばん合っているだろうと結論付けました。

--改めて、従来のラボメンバーとフェローの違いを教えてください。

片山 ラボメンバーはいわゆる“連載作家さん”で、我々編集者が担当につき、パブリッシングまで担当させていただきます。フェローは、簡単に言うと“ラボメンバーを目指すクリエイター”になるでしょうか。



※ラボメンバーとフェローの違いを箇条書きでわかりやすくまとめると、以下の通りとなる。

●ラボメンバーとは?

  • 半年ごとに税抜500万円を支給(支払いの前に審査あり)
  • 著作権はクリエイターに帰属
  • 担当編集者が全力サポート
  • 英語対応、多言語化対応サポート
  • 講談社による作品のパブリッシング
  • 講談社媒体による広報・宣伝・営業サポート
  • 作品のマルチメディア展開サポート
  • IP許諾、コラボ案件のサポート
  • 取材同行サポート
  • 講談社内のモーションキャプチャスタジオ使用可能 など

●フェローとは?

  • 担当編集者が全力サポート
  • ラボメンバーを目指して担当編集者と企画を作る
  • 企画が完成したら「ラボメンバー選考会議」(随時開催)に提出する
  • 著作権はクリエイターに帰属

 フェローは、ラボメンバーの1歩前の段階にあるクリエイターのこと。これに選ばれれば金銭の支給はないものの担当編集者が付き、いっしょに企画を練って、ラボメンバー選考会議に臨むことになる。その会議で認められれば晴れてラボメンバーとなり、企画の完成と発売を目指して開発を進めていく。


--フェローに関しては、作品ができたからと言って必ずしもパブリッシングが約束されているわけではないと。

片山 そうですね。フェローは作品というよりむしろ企画を作るフェイズだと考えています。企画を作り、マンガで言う連載会議を経て承認されたらラボメンバーとなって、制作~パブリッシングまでの作業を担当編集者がお手伝いさせてもらう流れになります。

--より広い間口を用意して、インディゲームクリエイターを目指す人に入ってきてもらうシステム……ということになりますね。

片山 まさに、おっしゃる通りです。ゲーム制作は非常に時間がかかるので、作品になる前の企画や構想の段階でも応募できるようにしたいという思いから、フェロー制度を構築しました。

--確認ですけど、今後の採用者はすべてフェローを経て……というわけではなく、従来のラボメンバーもしっかりと継続して存在するわけですよね?

片山 もちろんです! GCLAが常時募集になるので、我々の採用会議の頻度も上がると思います。その中で完成度の高い企画や作品に出会えたらこれまで通りラボメンバーとして選出し、すぐにアナウンスもいたしますので、注目していただければと思います。

--より取っ付きやすいフェローができると、才能を発掘する作業が忙しくなりそうですね。

片山 はい。インディゲームのイベントや専門学校にお邪魔させてもらって、我々のほうからスカウトをさせてもらうことも増えると思います。

--あー! 先日、アミューズメントメディア総合学院のイベントを取材させてもらいましたけど、ああいった場で才能を見つけて、フェローとして採用を行う……ってことも考えられるわけですね。

片山 おっしゃる通りです! 学生さんがゲーム制作を仕事にしたいと思ったとき、これまではいかにゲームメーカーに就職するか……ということを考えていたと思いますけど、今後はそれだけじゃなく、インディゲームクリエイターとして活動していく道もありますよ……ということを、機会があるごとにこちらからもご提案していきたいと考えています。

--もうひとつ確認させてください。フェローはラボメンバーと違い、お金の支援は行われないんですよね?

片山 そうですね。お金の支援はありませんが、担当編集者が付きます。

--もう、打ち合わせをする担当編集者がいるだけでぜんぜん違うと思いますよ。

片山 これも、マンガと似ていますね。賞を獲っても賞金以外、支度金のようなものはもらえません。でも担当編集者が付いて、「連載を目指していっしょにがんばっていきましょう!」というフェーズに入るわけです。フェローは、まさにそういった立場のクリエイターとなります。「まずは、お金がもらえるラボメンバーを目指してがんばろう!」という感じで。



※ここで改めて、どのような流れでラボメンバーになるのかを簡単に解説しておきたい。

(1)フェローを経由する場合

企画書やデモを選考委員が多角的に審査し、書類選考を経たのちに面談をもってフェローになるかを決定する。フェローに選出されると担当編集が付き、その後半年間にわたって伴走を行う。そして、担当編集と定期的に打ち合わせを行い、随時行われる「ラボメンバー選考会議」に企画を提出する。その会議で企画が承認されると、「ラボメンバー」となります。

(2)フェローを経由しない場合

書類選考、面談の結果によっては、フェローを経由することなくラボメンバーに決定する場合もある。


--とてもよくわかりました。でもくり返しになりますけど、講談社の編集者が担当についてくれるというだけで、ものすごく力になりますね。

片山 はい。我々が、クリエイターの皆さんのモチベーターになれればいいなと考えています。担当編集者は、意見が欲しければ真摯に考えてお答えしますし、ただの話し相手にもなります。作品のために取材したいことがあれば、もろもろの段取りもさせていただきます。

--では、今後の展望をお聞かせください。

片山 インディゲームクリエイターの方々がゲームを作って暮らしていけるエコシステムを構築するために、より持続可能な形を整えていくことが大きな目標です。そのために、作品の常時募集やフェロー制度を導入しましたので、ゲームクリエイターを目指している方々はぜひ、GCLAの取り組みに注目していただきたいと思います!

※なお、このインタビューの“完全版”を、近日発売の週刊ファミ通、さらにファミ通.comで掲載予定です!