マッチング型マンガ投稿サイト「DAYS NEO」から連載に繋がった作者と作品を紹介する「それはDAYS NEOから始まった」、第21回!
今回は2022年11月にモーニング編集部 鈴木(以下、鈴木)とマッチングし、2024年8月27日よりコミックDAYSにて『一緒にごはんをたべるだけ』を連載開始、2025年2月12日に単行本第1巻が発売予定の大町テラスさん(以下、大町)にインタビュー。
大町さんが抱えていた生みの苦しみ、ぶつかり合いを交えながら築いてきた担当編集者との歩み…マンガ家が直面する悩みと喜びが等身大で語られたインタビュー、ぜひご一読ください!
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本インタビューは作品のネタバレを多く含みます。
ぜひ『一緒にごはんをたべるだけ』を読了後にご覧ください!
作品の強みを理解してくれる担当編集者との出逢い
―DAYS NEOに投稿したきっかけを教えてください。
大町:
私、作品の講評をもらうのが大好きなんです。
だから、DAYS NEOはサービス開始直後から利用していました。マンガを投稿したらいろんな編集者に見てもらえるのってマッチングアプリ感覚で気軽でいいなと思って。
知り合いのマンガ家さんで今後の活動に悩んでいる方にも「いいマッチングアプリあるよ、DAYS NEOって言うんだけど」って勧めてます(笑)。
―実は、DAYS NEOの「編集者のみ公開」という機能は恋愛マッチングアプリから着想を得て実装した機能です。
大町:
あの機能、すごくありがたいんですよ。同人誌として販売していたり、一般に無料公開しづらい作品も編集さんだけに見てもらえるなら載せられるし。
作家にもバッチリご配慮いただけて助かります。DAYS NEOだいすき!(笑)
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作品投稿時に公開範囲を選択でき、
一般ユ―ザ―への閲覧制限をかけることが可能。
―ありがとうございます!
大町:
鈴木さんとマッチングした時は、ちょうどKiss、BE・LOVE編集部(現・女性コミック編集部)が主催する「オトナ女性漫画大賞」というコンテストをやっていたんです。自分が尊敬している先生がBE・LOVEで連載されていたので、興味を持って応募してみました。
それまで何回か青年誌の編集さんからお声がけいただくことはあったのですが、女性コミック誌の担当がほしい!と思ったのもありますね。
―そこで投稿されたのが『おまじないあるいはヤングカルビ290円』ですね。女性コミック編集部の編集者からも担当希望が送られていましたが、モ―ニング編集部の鈴木さんとマッチングしたということは…。
大町:
結果、青年誌の編集者とマッチングしちゃいましたね…。
鈴木:
経緯を聞くと、僕の担当希望を承諾してくれた理由が気になりますね。
大町:
あのコンテスト、KissかBE・LOVEの編集さんとマッチングすると賞金がもらえたんですよ。正直、お金は欲しかったんですけど、ちゃんと考えて鈴木さんを選びました。(笑)
鈴木:
(笑)。
大町:
BE・LOVE編集部の方からは「絵柄を少し調整できたら…」というようなメッセ―ジをいただいたんですが、個人的に絵柄の矯正は難しいなという感覚がありました。
一方、鈴木さんのメッセ―ジには「お望みかどうかはわからないのですが、作品の強みとしてエロを推していく選択肢もありそう」と書いてあって。自分でもうっすら「エロを押しだしたものをやるべきかもしれない…」という気持ちを持っていたので、はじめからそこを理解してくれる人と組めれば作品づくりはスム―ズにいくと思ったんです。
あと、鈴木さんの担当希望のメッセ―ジは、他の方の2倍くらいの長さだったんですよ(笑)。
―実際に見てみると、鈴木さんの熱量が伝わりますね。
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投稿された鈴木さんの編集者メッセ―ジ。
※投稿作は、DAYS NEO上では編集者のみ閲覧可能
大町:
そうそう、これです。この「ラストに感銘を受けて、その勢いのまま…」っていうメッセ―ジの入り…やらしいな(笑)。
―(笑)。
大町:
鈴木さん、よくやりますよねそういうの。メ―ルしたら「ちょうど僕も連絡しようと思ってたんですよ」とか。
鈴木:
大町さんによく言われるけど、本当なんですよ。
大町:
「本当に思ってますよ」感を出すのがお上手ですね!
鈴木:
(笑)。
―熱量の伝え方がお上手なんですね(笑)。
鈴木さんはなぜ『おまじないあるいはヤングカルビ290円』に担当希望を出したんですか?
鈴木:
純粋に面白かったからですね。
当時、なんとなく「すごくリアルなものを描く恋愛漫画を担当してみたい」と思っていました。そんな時に『おまじないあるいはヤングカルビ290円』を読んだんです。
作中に恋人たちの別れ話のシ―ンがあるのですが、自分が想像していた恋愛のリアリティみたいなものが、そこに描かれていました。絵もすごく好きだったのですが、とにかくクズ男のダメさが本当にいいんですよね。
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彼氏のSNSを探る主人公。
大町:
え?どのキャラがダメなの?
鈴木:
みんなダメじゃない?
大町:
ダメだと思って描いていないんだけどなぁ(笑)。
鈴木:
そこがいいんですよ。
作家さんが「自覚なく普通にやっている、でもその作家さんにしかできないこと」を大きな声で世間に伝えることが、自分の仕事の一つだと思ってます。
だから大町さんが描くそういう部分を、作品として世に伝えられたらな~と思いました。
この作品のプロットを初めに聞いた時、描くのは嫌だった
―マッチング後は連載開始までどのように進んでいったんですか?
鈴木:
最初、対面の打ち合わせのためにご自宅付近まで伺いましたよね。
大町:
当時住んでいた集合住宅がちょっと変わった環境で。
その場所を題材にした作品を描きたかったので、打ち合わせがてら鈴木さんに実際の様子を見てもらえたら一石二鳥だなと思って、来てもらいました。
鈴木:
とりあえず『一緒にごはんをたべるだけ』1話目のプロットを提案してみたんですけど、大町さんはその企画をすごく描きたがっていたから…。
大町:
違う違う。自分が構想していた企画を描きたかったのもあるけど、不倫の話っていうのがすっごく嫌だったんですよ。
「一緒にご飯を食べていて一見夫婦っぽく見えるけど、実は不倫でした~っていうオチの第1話を描いてください」って言われて、「え?嫌なんですけど…」みたいな(笑)。
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一見 仲睦まじい夫婦に見える二人の関係は…。
鈴木:
嫌なものを描いてもらっても面白い作品にならないと思うので、じゃあ別の作品を描いていきましょう!という話になりました。ただ、しばらくネ―ムを描いてもらっていたんですがあまりうまくいかなくて。
大町:
どの編集者と一緒にやってもそうなんですけど、私がやりたい!って思ったことって、大抵うまくいかないんですよ。逆に、「こういうのやってみない?」って言われた時に拒否反応を感じるもののほうがうまくいくような気がしていて。
色々悩んでいる間に、「やっぱりあの話、やってみませんか?」と言われて。改めて「自分は❝不倫❞の何がこんなに嫌なんだろう?なんでこんなに嫌悪感があるんだろう?」っていうことに向き合ってみたら、不倫を題材にして語りたいことがあるんだなって気づけたんです。
―不倫を題材にした作品づくりへの拒否反応、理由はなんだったんですか?
大町:
円満な結婚生活を恒久的に維持するのってすごく難しいと思いませんか?
恋愛もセックスも子育ても家族としての情みたいなものも、1人のパ―トナ―が担うってどう考えても無理なのに、ほとんど無理ってわかっていながらそれでも一生を誓いあう。けどそのきれいごとを双方が維持しようとするからこそ結婚って価値があるんじゃないか?…とか。❝結婚❞についての持論を普段から追究しているので、不倫を題材にするとその持論を裏切ることになるって思い込んでしまったんだと思います。
あと鈴木さんと初めて会ったときは産後1年くらいの時期で、完全に母親脳だったんですよ。鈴木さんも育児中と聞いていたので、「子育ての話もできたらいいな♪」と思っていたら、不倫のマンガを描けと言われて。
しかも性的な要素とごはんの組み合わせって、自分も含めて嫌悪感を抱く人が多いと思うし。「なんて嫌な企画を提案してくるんだ!」と思っていました(笑)。
鈴木:
(笑)。
大町:
でも逆説的に夫婦や家族の話を描ける!と糸口をつかんで『一緒にごはんをたべるだけ』を描き始めてから、そう思ったことを完全に忘れていて。「人間ってやっぱり複雑な生き物だよね」という気持ちで描いていたら、面白くなってきてしまったんです。
第1話が公開されたあとに「気持ち悪い!」「最悪!」みたいなコメントがいっぱいついて、悲しいと同時に「ハッ…!確かに、最初は私もそう感じたな」と思い出して…真っ当な感想だなと。
―第1話のラストの展開に裏切られた読者はたくさんいるでしょうし、リアルな感想ですよね。
大町:
自発的には絶対やろうと思わない、1話のラストでびっくりさせる構造の作品なので…(笑)。ほのぼのした作風の印象を裏切ってすいません、という気持ちです。
―おふたりは共犯、ということですね。
鈴木:
それでいうと、僕は教唆犯ですね(笑)。
つくりたい世界観を世に届ける「お皿」を作ってくれた、担当編集者の提案
―鈴木さんは、なぜ大町さんに不倫を題材にした作品の提案をされたんですか?
鈴木:
大町さんは「やりたいことがうまくいかない」と仰っていましたが、ちょっと違う気がしています。打ち合わせを重ねていくうち、大町さんが描きたいものを突き詰めていくと、叙情的で、純文学みたいな表現に近づいていくと感じたんです。マンガでいうと短編っぽくなる。商業誌での連載作品として成立させるためには、作風をポップな方向に調整することと、わかりやすいフックをつくることが必要だと思っていました。
あとは、大町さんがDAYS NEOに投稿された作品たちを読んだときに「すごいエロいな」と思ったんです。
大町:
(笑)。
鈴木:
『しきじに行った話』も、サウナに入っている女性を描いた一コマだけで、ちゃんとエロさがあるんですよ。もし大町さんと一緒にマンガをつくるなら、そのエロさを魅力的に出せる作品に挑戦したいと思ったんです。
それで、僕は「社会人がする一番わかりやすくエロい行為」って、まあ…不倫かなと思いまして。サラリ―マン編集者としての目論見でもあるのですが。
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「ととのう」瞬間を表現したシ―ン。
―目論見、ですか?
鈴木:
はい。先ほど言った「わかりやすいフックを作る」ためでもありました。
最初に大町さんが考えていたマンガで連載を目指していたんですが、どうしてもフックになるものが用意できなかったんです。商業作品かつアプリのみでの掲載作品ということになると、一言で「これはこういうマンガです」と言えるものが強いので、どうにかしたかった。
…っていうことを説明して、ご理解いただけたから『一緒にごはんをたべるだけ』を描いてくれたんです…よね?(笑)
大町:
そう…かも(笑)。
―『一緒にごはんをたべるだけ』に着手してからは順調に進んだんですか?
大町:
ネ―ムを描き始めてからは、割とスム―ズでしたよね。
鈴木:
スム―ズでしたね。最初のネ―ムを読んだとき「そう、これっ!!」って思いました(笑)。
大町:
企画がうまくいっていないときでも、自分の作品にいいところはあるとは思っていたんですけど、骨子がないという感覚があったんです。良い材料があって、料理もしたのに、乗せるお皿がない。
そこを「このお皿に乗せたら、あなたが作った料理、もっとたくさんの人が食べたくなるかもよ」と教えてもらった気がして。鈴木さんとマッチングしてよかった〜!と思いました。
―手ごたえがあったんですね。
大町:
そうですね。企画を練り直すなかで『一緒にごはんをたべるだけ』から不倫要素を抜いたような話も描いたんですが、会議に出すとやっぱり「弱い」と言われていました。食べさせたいものはあるのに美味しそうに盛り付けできていない状態だったんです。
でも『一緒にごはんをたべるだけ』を描き始めて、この作品の中で表現していけば、やりたいこと全部できるじゃんっていう感覚になって、急にいける!って気持ちになりましたね。
鈴木:
「こういう作品を描いてほしい」とお願いした域を超えたクオリティになっている感触でした。
「描きたいもの」に納得してもらわないといけない時がある
―それから、連載決定までの流れはいかがでしたか?
鈴木:
この作品は第1話のオチで読者を驚かせる構成になっているので、第2話目までつくって連載会議に出しました。それで通って…。
大町:
いや、そんなにすんなりいってないですよ。何回か描き直しました。第2話目をつくるときにすごい喧嘩しましたよね。
鈴木:
あ~、そうでしたね。
―モ―ニング編集部からのフィ―ドバックに対して、おふたりが納得する形になるまでに紆余曲折あったんですね。
大町:
紆余曲折ありましたね(笑)!
私が最初に描いた第2話が、今公開されているものに割と近いものだったんです。
でも鈴木さんが「絶対に主人公と配偶者をセックスさせないほうがいい」っていう意見だったので、冒頭でそこを描くかどうかでしっかり喧嘩しました。
鈴木:
そうでしたね。
大町:
鈴木さんは「絶対反対!」って感じだったので、「そっか~」と思ってセックスなしで描き直したんですけど。そしたら編集部からは「冒頭にもっとエッチなシ―ンを入れてもいいんじゃないか」って返ってきたんで、「ほら!私が最初に考えたのでよかったじゃん!」って(笑)。
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意見のぶつかり合いを経て採用された、配偶者とのセックスシ―ン。
鈴木:
ごめんなさい、って言った記憶があります(笑)。
この作品は難しい構造のマンガで、不倫関係にある2人がメインカップル。そうなると配偶者が出てきたときに「寝取り」みたいな関係性に見えてしまうんですよ。なので配偶者との絡みを見せたら読者が萎えてしまうんじゃないかと懸念していたんです。
でも「好きな人はヨソにいるんだけど、家庭ではちゃんとやってます」という状況だからこそリアルなんだと思うし、今は第2話がこの形でよかったなと思っています。
大町:
私の現実への解像度についてこれなかったんですね。鈴木さん、ラブコメ脳だから(笑)。
鈴木:
うるさいな(笑)。
そもそも、大町さんが描くリアルさが良いと思って担当希望しているので、そうあるべきだな~と思い直しました。
―大町さんもそこでブレなかったんですね。
鈴木:
大町さん、譲らんもんね(笑)。
大町:
そんなことないですよ!言われた通りに直して良くなるならそうします(笑)。
編集者も自分の言った通りに直してほしいわけじゃなくて、物語が一番面白くなるための提案をしてくれているだけだと思っているので。なぜそういう直しを言われたのか?の原因を考え抜いて指摘された箇所に問題がないと思ったときは「私、あってます」って意見を貫かないといけないんです。本当は喧嘩したくないんですけど…。
鈴木:
そうですね。作家も編集者も納得するまで、話し合いが必要だと思っています。
大町:
女性主人公と配偶者がセックスレスだから、とかDVを受けているから、という理由で不倫しているっていう作品はすでに世の中で評価されているものがたくさんあるので。同じことをやっても仕方ないかなと思ったんです。
鈴木:
そこは最初からずっと言っていましたね。
大町:
だからこのシ―ンは必要だったんです!
鈴木:
そうだ、僕、最初のほうは「旦那のほうをもっとわかりやすくヒドいやつにしてくれ」と言ってました。
大町:
うん、言ってた。私としては今の「後ろからしてる」くらいがちょうどいいさじ加減かなって思ってたのに、もっと乱暴にタキちゃんを扱うようなやつにしてほしいって(笑)。
鈴木:
もう少し、読者が不倫に納得できたほうがいいのかなって思ってたんですよね。
大町:
どんな理由があっても不倫に納得なんてできないですよ。
鈴木:
そうかも。だから今の形に行き着いたというか。
「乱暴なセックスをする男はイヤ!」っていう話より「何も不足がないはずなのに、私が一番大切にしたい価値観を分かち合えない」。今作でいうと「ごはんを一緒に美味しく楽しく食べてもらえない」っていう話のほうが、真に迫った苦悩を描けていると思うので。
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食事に対してのリアクションがほしい、と求めた主人公に対する夫の反応。
―破綻した夫婦関係を見るより、切ないですね。
鈴木:
ですよね。それが実現できたと思うので、よかったなと。
疑心暗鬼になった連載準備期間
―連載開始は2024年8月でしたが、連載が決まったのはいつ頃でしたか?
大町:
2024年の2月頭くらいでしたよね?
鈴木:
そうですね。
―連載決定から連載開始まで、半年ほど準備期間があったんですね。
鈴木:
はい。隔週連載って結構大変なので、貯金がないと体調を崩したときとかに厳しいんですよ。なので単行本1巻分くらいのネ―ムは用意しておきたいですね。
大町:
準備期間中はずっと焦ってました。
鈴木:
そうでしたね。
編集者としては、連載開始前ってかなり慎重になるんですよ。「いざ始めてみたらスケジュ―ルが火の車」みたいなケ―スもあって、そのせいで作家さんに健康を害してほしくないですし。
でも準備している間って、担当編集者からのリアクションしか得られないままマンガを描き続けなければいけない状況になるので、作家さんにとっては苦しい時期でもある。実際「早く始めさせて!」って喧嘩になりましたもんね。
大町:
しょっちゅう喧嘩してますね…(笑)。今思えば鈴木さんが慎重に準備してくれていただけだってわかるのですが…。すみません。
―やっぱり、精神的に苦しい時期でしたか?
大町:
そうですね。ネ―ムを提出したあとにしばらく返事がこなかったりすると「ああ、またダメなんだ…」とか「永久に連載が始まらないのでは…?」と落ち込んだり。とにかく不安で、しまいには「この人、偽物の名刺を持って私を騙してるのかも!」と思うこともありました(笑)。
鈴木:
そんなに待たせてないのに…(笑)。でも、それを聞いて「そっか」と思った部分もあるんですよね。
描き貯めをしましょう、という提案自体は連載後の作家さんの生活を慮ったものなんですが、でもその瞬間は孤独だったり、辛かったりするよなと。その期間を長くとれば、イコ―ル親切であるというわけではないな、と思いました。当たり前なんですけど。
大町:
…でもそんなこと、一言も言ってなかったですよ!
鈴木:
そうねえ。そうだったかも…。
―言わなかったんですね(笑)。
真剣にぶつかり合って準備した後、連載開始したときはどんな気持ちでしたか。
鈴木:
大町さんはハイな状態になってました。
大町:
やっと連載が始まって、楽しんでもらえるかなと思ったけど「気持ち悪い!」っていうコメントの嵐だったから、ハイな気分から一気に落ち込みました(笑)。で、また様子がおかしくなって…。
鈴木:
あのときはほんと大変でしたね。
大町:
インモラルな題材ではあるけど、ここまでたくさん批判的な感想が出るということを予想していなかったんです。
―そこからどうやって持ち直したんですか?
大町:
鈴木さんに相談したら「SNSをやめましょう」って言われました(笑)。わかりましたって言って、一回全部見るのをやめました。
―強めのアドバイスですね(笑)。
大町:
ずっと冷たいんですよ。
鈴木:
誰よりも優しくしてますよ。
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ふたりの信頼関係が垣間見える。
大町:
でも結局コメントを見るのをやめられなくて。最近は見すぎて慣れてきました。
鈴木:
ここが大町さんのすごいところで、ガッツがあるんです。正直、描き貯めも絶対に一瞬で消費されていくと思っていたんですけど、今日まで走り続けて貯金をキ―プしているし。お子さんもいて、家庭ではマンガに出てくるようなガチな料理もつくられているし、本当に尊敬してます。
大町:
ありがとうございます!!
批判的なコメントの多さは、反響の大きさの裏返し
鈴木:
第1話公開後、確かに批判的なコメントは多かったのですが、コミックDAYSでの閲覧数は好調だったんです。だから、僕は「これでいい」って思っていました。
でも、閲覧数が多いことと好意的なコメントがつくかどうかは全然別の問題なので、「傷つきそうなものは見ないでください」と伝えていました。
大町:
「あまりにも批判が多いと不安だよね」って共感してくれれば気が楽なのに「傷つく必要まったくないです」としか言わないんですよ。教唆犯の自覚があるなら実行犯の心労も理解してください!ってお願いしました(笑)。
鈴木:
それはそうだなと思い直して…(笑)。でも僕は反響があることに「よしよし」と思ってました。それだけ誰かの感情が動いているのって単純にすごいことなので。
―コメントの内容は、連載開始当初と今とで変わりましたか?
大町:
あんまり変わらず…ですかね。でも皆さん怒りながらも読んでくれているんだなというのは、感じます。「もう読むのやめようと思ってたのに、更新がくると読んじゃう」みたいなコメントがあると、ちょっと嬉しいです。
鈴木:
「なぜか読んでしまう」という気持ちを引き起こすような作品をつくりたいと思っていたので、それが実現できていることはすごく嬉しいです。
連載当初よりは、フラットな目線で「これは地獄だね」って言いながら楽しんでくれる人が可視化されてきた感覚ですね。
大町:
もしかしたら実際に不倫をしている人が共感して読んでくれているかもしれないけど、そんな人はコメントしないだろうし…。
鈴木:
コメントしてくれる読者は作品にものすごく心を動かされている人たちです。コメントはしていないけど読んでくれている人のほうが圧倒的に大多数なので。
大町:
きっと単行本の売れ行きで読者の本当の気持ちがわかると思うので、今から緊張で吐きそうです。単行本が破り捨てられた画像が送られてきたらどうしよう(笑)。
鈴木:
そんなことあるわけないでしょ〜と言いつつ、万が一そうなったら…それだけ大きく読者の心を揺さぶったことを誇りに思ってください。
大町:
一緒に傷ついてほしいのに(笑)!
激しく「正しさ」を求める世間に対する疑問
―多くの読者が感情を揺さぶられているのは、おふたりの狙い通りでもありますよね。読者の感情を揺さぶった先に、どのような想いを伝えたいとお考えでしょうか?
大町:
今作では子どもがいながら不倫をする人が出てくるんですけど、それに対して「子どもがかわいそう」とか「最低」ってコメントがたくさんついたんです。もちろん「そうだね」って思うのと同時に、彼らの親としての姿が無視されているところには疑問を抱くこともあります。
子どもに対しては、笑顔で接してごはんを食べさせて、きちんと育てている。それって本当に「最低でかわいそう」なのかな、と。
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父親として子供に向き合うレイ。
世の中の、子育てする人に対するハ―ドルが上がりすぎていると思うんです。不倫を肯定したいわけではないし、虐待とかは当たり前にダメなことは大前提だけど、親だって人間だから間違ったことをする。聖人のような人以外は子育てをしてはいけない、みたいな圧力で少子化が更に進んじゃうんじゃないかっていう危機感があるんですよね。
「極度に正しさを求めるその行為、本当に正しいですか?」って世間に問いなおしたい気持ちがあります。
鈴木:
そうですね。最近は、世間で求められる「正しさの強度」がもしかしたら上がりすぎているのかもしれなくて。「よくないとされていること」が一切受け入れられない世界へ進んでいるような。
でもみんな清廉潔白ではないよな、そもそも人間ってみんなダメじゃん?っていう感覚があって、そういうところを描いてもらいたいと思っています。
―では、『一緒にごはんを食べるだけ』をどんな方に届けたいですか?
鈴木:
マンガを読んで、感じたことのない感情になってみたい人には、ぜひ読んでもらいたいです。本質的には物語に触れる意義ってそこにあると思っているので、「なったことのない気持ち」がほしい人に届いたら嬉しいです。
作中に登場する人たちはみんなダメな人たちなんですよ。だからこそ「こいつら全員ダメだけど、俺もダメだし、みんなも俺もダメでいいのかもしれない」みたいな、許容範囲を広げるような気持ちになってくれたらいいなと思います。
本来はごはんのマンガっていうだけで、その中の世界は平和になっていくはずなんですけど、今作はそうじゃない物語です。ごはんマンガとしては新しいものになっているかなあと。
大町:
これ、ごはんマンガなんですか?(笑)
鈴木:
ごはんマンガではあるでしょ(笑)。ごはんがないと成り立たない物語ですから。
こんな感じで…伝わりましたかね?
―バッチリです! お忙しい中、ありがとうございました。
大町:
ありがとうございました!
鈴木:
ありがとうございました。
『一緒にごはんをたべるだけ』は、コミックDAYSにて好評連載中!
2025年2月12日(水)に単行本 第1巻が発売。
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