それはDAYS NEOから始まった #23 『甲化人間』ハヤシロウ先生×担当編集者インタビュー

それはDAYS NEOから始まった #23 『甲化人間』ハヤシロウ先生×担当編集者インタビュー

マッチング型マンガ投稿サイト「DAYS NEO」から連載に繋がった作者と作品を紹介する「それはDAYS NEOから始まった」、第23回!

今回は2023年6月にヤングマガジン編集部 白木(以下、白木)とマッチングし、2024年12月12日よりヤンマガwebにて『甲化人間』を連載開始、2025年4月18日に単行本第1巻が発売予定のハヤシロウさん(以下、ハヤシ)にインタビュー。

DAYS NEO投稿作『バク転』、ちばてつや賞 受賞作『目からビーム』、ヤングマガジン連載中『甲化人間』…これらの毛色が大きく異なる作品たちはどのように生まれてきたのか? マッチングから半年でちばてつや賞を受賞したハヤシロウさんはどんなふうに作品をつくるのか? 担当編集者とはどんなやりとりをしているのか?
ココでしか読めないエピソード盛りだくさんでお届けするインタビュー、
ぜひご一読ください!


本インタビューは作品のネタバレを多く含みます。
ぜひ甲化人間を読了後にご覧ください!

「1件だけ届いた担当希望を承諾した」から始まったふたり


DAYS NEOに投稿したきっかけを教えてください。

ハヤシ:
自分の作品の保管庫として使いたかったので、登録しました。

ビューワーがマンガアプリみたいで「プロっぽくていいな」と思っていて、ついでに感想をもらえるならいいなと。当時はマンガ家と編集者のマッチングを行っているサイトだと知らなかったので、まさか担当編集者がつくとは思っていませんでした。

編集者から担当希望やメッセージが送られるとメールが届くと思うのですが、驚かれましたか?

ハヤシ:
メールを見ないタイプなので、全く気づかなかったです。

白木:
そうだったんですね(笑)。

ハヤシ:
すみません(笑)。いいマンガ描けたな~と思ったので、見返すために投稿して1時間後くらいにDAYS NEOを見にいったんですよ。そしたら白木さんがメッセージをつけてくれていて、気づきました。

―実際に担当希望とメッセージを受け取ってみて、どうでしたか?

ハヤシ:
「とりあえずXで自慢したろ!」と思いました。さっき言った通り白木さんは投稿後1時間でメッセージをくれたんですけど、他の人からもメッセージ来ないかな~と思って1日放置してました(笑)。

白木:
あはは(笑)。

―なぜ白木さんからの担当希望を承諾されたのでしょうか?

ハヤシ:
白木さんからしか担当希望がこなかったから、という理由で承諾しました(笑)。申し訳ないんですが当時は白木さんのことを知らなかったのもありますし、1日寝かせてみたんですけど、他の編集者さんからの担当希望は来なかったので。

白木:
(笑)。

ハヤシ:
今となっては、あのとき担当希望が白木さんからの1件だけで本当によかったと思っています。

担当編集者といっても、編集者の方々って忙しそうなイメージがあって、新人マンガ家からしたら連絡を取りづらい存在なんです。ただ、白木さんは毎回「次はいつ打ち合わせしましょうか?」と提案してくれるんです。おかげで連絡が途切れないですし、相談しやすくて助かっています。

インタビューからちょっと脱線しちゃうんですが、複数の編集者さんから担当希望をもらった場合はどうすればいいんですか? サイト上で編集者プロフィールやメッセージは見れますが、テキストの情報だけだとマッチング相手を決めきれないマンガ家さんもいそうですよね。

―そんなマンガ家さんのために、DAYS NEOでは「マッチング相談窓口」を開設し、マンガ家さんの編集者選びをサポートしています。「会話して相性を見極めたい」という相談を受けることが多いので、その場合はDAYS NEO運営が仲介するかたちでマンガ家さんと編集者の面談を設定します。

ハヤシ:
そんなことまでしてくれるんですね、すごい。

―はい。多くの方から、他にも様々な相談を受け付けています。
 さて、白木さんはなぜハヤシさんの『バク転』に担当希望を送ったんですか。

白木:
シンプルに、作品の面白さに惹かれました。ストーリーから、ほとばしるルサンチマンを感じたというか(笑)。
「オーガニックラブが欲しいんだよーーー」とか、こんなインパクトが強いセリフ、そうそう思いつかなくないですか? 天才だと思いました。

DAYS NEO投稿作 『バク転』より。
主人公の魂の叫び。

―「バク転ができればモテる」ってすごい発想ですよね。

白木:
設定がヤンマガっぽく感じたのも、メッセージを送ったきっかけです。

ヤンマガはアウトサイダー向けの雑誌だと思っています。『バク転』も、モテの王道から外れた男たちのマンガだと思いました。作風がヤンマガと合っていて、かつストーリーが面白い作家さんだと強く感じたので、「これはすぐにでも担当希望を出さなくては!」と思いました。

―「バク転でモテる」と説いているのがイケメンの「カヲル」くんなのも笑えました。

白木:
名前もビジュアルも、とっても魅力的なキャラですよね(笑)。

ハヤシさんは「訳わからないけどめちゃくちゃ面白い」と思わせるような、読者を惹きつけるシーンをつくるのがとてもお上手なんです。それを自然にやれる人はあまりいないので、すごいと思っていますね。

担当編集者からの大きな期待に応えた、ちばてつや賞 受賞

―マッチングしてから、どんな打ち合わせをしていったんですか?

ハヤシ:
僕はそもそもマンガの描き方をよく分かっていなかったので、白木さんに三幕構成の資料とかをいただいて、基礎から教えてもらいました。

白木:
今思えば、ちょっと偉そうでイヤな感じですね…(笑)。

最初の打ち合わせでは、「影響を受けた作品を10個教えてください」と、ハヤシさんの好きな作品を聞かせてもらいました。そのあとに「何年までに作品をアニメ化したいね」みたいな人生設計の話をしたと思います。

―DAYS NEO投稿作の『バク転』『アゲマンマスター』はギャグの要素が強く、連載中の『甲化人間』とはかなり毛色が違う作品ですよね。おふたりの間でどんなやりとりがあって、この方向転換に繋がったんですか?

ハヤシ:
白木さんって、常にマンガ家のいいところを見つけてくれるんですよ。

自信のないネームを提出したときも、まずは褒めてくれるんです。最初はその言葉を素直に受け取れていなかったのですが、今では褒めてもらったことは自分の武器だと思えるようになりました。

DAYS NEOに投稿した当時、得意なことはギャグしかないと思っていたんですが、打ち合わせを重ねて自信がついたのもあり「こういう話を描いてみたい」というアイデアが増えていったんだと思います。

DAYS NEO投稿作『アゲマンマスター』より。
笑いどころが詰め込まれているページ。

白木:
ハヤシさんは発想力が頭抜けていると思っているので、それをお伝えしていただけですよ!

ハヤシ:
ありがとうございます。

そこから白木さんを唸らせるために、ギャグを「メイン」ではなく「スパイス」にした作品にチューニングしていきました。白木さんを意識して描くようになったというか(笑)。

―作風を変更していく…ってかなり大変だと思うのですが、どんなことを意識しながらチューニングを進めたんですか?

ハヤシ:
ギャグ一辺倒の作品でも白木さんは褒めてくれていたんですが、家族愛とか恋愛みたいな、人間関係に関することをアイデアとして話したときの反応がすごくイイ感じだったんです。

そこで「白木さんは人間関係を描く作品が好きなのでは?」と思って、白木さんのハートを撃ち抜くために、そこを狙っていくようになりました。

白木:
恥ずかしいんですけど(笑)。

ハヤシ:
あと、白木さんは「編集者が作品の方向性に指示を出さないほうがよい作品が生まれる」というスタンスの方なので、僕がひたすら白木さんを狙い撃つネームをつくるというかたちで作品づくりを進めることが多かったですね。

白木:
ハヤシさんのアイデアの面白さには毎度驚かされていましたし、下手にストーリーやジャンルを限定しない方が唯一無二の作品を描けそうだと思っていました。読み切り作品の『目からビーム』や『黒い涙』といった、全く違うタイプのお話を描けることからもわかる通り、手数も多いし描けるジャンルも幅広いんです。

―2023年6月にマッチングしてから『目からビーム』で受賞する12月までの半年間で、どれくらい読み切り作品をつくられたんですか?

ハヤシ:
担当についていただいて、まず、ちばてつや賞に向けて準備をすることになりました。1本目のネームは「こりゃだめだ~」って感じだったんですけど、ボツになったのはその1本くらいでしたよね。

白木:
そうですね。そのあと『目からビーム』がすぐ出てきた覚えがあります。

ハヤシ:
なので、受賞するまでは『目からビーム』と『黒い涙』しか描いていないです。

―企画の精度が高いですよね。なぜ1本目のネームはボツになったのでしょうか?

白木:
ハヤシさんなら、ちばてつや賞でも「準優秀新人賞」以上は取れると確信していました。なので、そこを狙えるか狙えないか微妙なラインの作品だったら、いっそ通さないほうがいいと思っての判断です。

ハヤシさんは大変だったかもしれませんが…(笑)。でも、間違ってなかったと思っています。

ハヤシ:
1本目のネームは直しようがないというか、修正して面白いものになるイメージが湧かなかったので、ゼロから新しいネームをつくりました。なのでたまたま2本目につくったネームが当たったという感じです(笑)。

正直、1本目から2本目のネームを思いつくまでに何か成長があったわけではなかったと思います。

―『目からビーム』は白木さんの予想通り、ちばてつや賞で準優秀新人賞を獲得されました。『目からビーム』の構想のきっかけを教えていただけますか?

ハヤシ:
僕はテーマを立てて、それを膨らませてマンガをつくっていくことが多いんですが、「中学生の頃って非日常を期待しがちだな」とぼんやり思うところから始まりました。

「教室の中にいきなり強盗が入ってくる」とか、「それを迎え撃つ力が自分にある」とか、考えたことありませんか(笑)?

『目からビーム』より。
特殊能力を得て、国民のために戦う主人公。

―学生の頃に誰もが妄想しちゃうやつですね。

ハヤシ:
ただ、仮に自分に強盗を退治する力があったとして「なぜ自分がその力を使わなければならないの?」って思うんですよ。本来、無償で危険を冒す必要はないじゃないですか。力を振るう理由が自己顕示欲だけじゃないほうが格好いいんじゃないか、と思って『目からビーム』を描き始めた気がします。

「楽しみながら読んでもらうこと」を意識

『甲化人間』第2話より。
物語の転換点がユーモアを交えて描かれているシーン。

―マッチングから半年でちばてつや賞を受賞するのは、かなり早い印象です。

白木:
めっちゃ早いですね。さらに、受賞から半年で連載を獲得しているのも、すごく早いと思います。(※連載獲得は2024年6月)

―ハイスピードな連載獲得、担当編集者としてどこに理由があると思いますか?

白木:
作家性が強かったというところに尽きると思います。

ハヤシさんは描きたいもの・オリジナリティが明確にあって、「俺はこれが面白いと思っている」っていうのをハッキリ持っているタイプなんです。そこに描きたいものを表現できる企画を当てはめることができれば、賞獲得や連載獲得も早い人が多いです。

その中でもハヤシさんは企画立案の勘所がすごく優れているタイプだったので、あんまり苦労しなかったですね。

ハヤシ:
そうですね。

白木:
そこで頷くの、ちょっと面白いですけど(笑)。

ハヤシ:
(笑)。

―ちばてつや賞までに立てた読み切り企画が3本で、そのうち2本が掲載されているのも珍しいですよね。

白木:
はい。特に『黒い涙』はXですごくバズりましたし、ハヤシさんの地力の証明になったと思います。

他の作家さんと比較しても、ハヤシさんはギャグに対する力の入れ方が違うんです。「何コマかに1回は笑えるシーンを入れる」と意識してくれているので、どんなマンガを描いても面白いし、読んでいる側も笑わせてもらえる。

ちばてつや賞に向けて複数の作品を作成したことによって、ストーリーテリングにも磨きがかかったと思います。元々強みだったギャグの切れ味に加えてストーリー展開の技術も向上したのは、『甲化人間』に活かされていますね。

―ギャグへのこだわりが強い理由はどこにあるんでしょうか?

ハヤシ:
まじめな話だけしていてもみんな聞いてくれないじゃないですか。学生時代も、授業が面白い先生って「雑談が面白い人」だったと思うんですよ。まじめな話だけじゃないから人気がある。

だから、「ギャグも交えて楽しんでもらえるようにするので、僕の妄想を聞いてください」って思いながらマンガを描いています。

白木:
ハヤシさんの「読者を絶対に退屈させないぞ」というサービス精神の高さは、作家としての強みだと思いますし、リスペクトしています。

―ちばてつや賞の受賞からさらに半年後、2024年6月の「ヤンマガ1話目ネームコンペ」に読み切り版の『甲化人間』を提出されています。『甲化人間』はどのように生まれたんですか?

ハヤシ:
たくさんやりとりをしてアイデアを生み出したというよりは、連載用の企画を何本か頭出しして、そのネームができたら白木さんに送って…の繰り返しでした。

白木:
ハヤシさんはネームでたたき台をつくってもらう方がイメージが膨らみやすいタイプなので、そういう形で進めてくださってましたね。

ハヤシ:
はい。最初は「このマンガを1行で表すなら?」みたいなかたちで10〜15個くらい案を出していたんですけど…。僕はテキストで説明するのが下手というか、描いているうちにアイデアが広がっていくタイプなので、途中からは良さげなアイデアが思いついたらネームで見てもらうようになりました。

白木:
その中でも『甲化人間』のネームが群を抜いて面白そうだったんです。

ヤンマガwebのインタビューを拝見したのですが、『甲化人間』を思いついたキッカケは「銀歯を入れたこと」だったとか。

ハヤシ:
「初めて銀歯を入れた時、今まで100%自分だったものが99%に欠けた気がして悲しかった」というやつですね。

白木:
『甲化人間』はネームと一緒に企画書を送ってくださったんですけど、そこに「テセウスの船のパラドックスについて考えている」と書いてあって、「『バク転』描いた人がこんなことを言うのか」と驚きました(笑)。

作品の幅は広いと思っていましたが、この人はSFもやれるのか…って、衝撃でしたね。

『甲化人間』連載版 第1話より。
ハヤシさんの気づきが落とし込まれたシーン。

―ヤンマガは連載を勝ち獲るために様々なルートを用意していますよね。今だと、コンペでの受賞が連載獲得につながることが多いのでしょうか?

白木:
それもメインのルートのひとつになってきていますね。

今回連載を獲得するきっかけになった「1話目ネームコンペ」は読者からの応援を高く評価するシステムなので、いわゆるヤンマガっぽくないものを連載できるチャンスなんです。『甲化人間』で連載を勝ち獲るにはぴったりだと思って、コンペに出しました。

―「1話目ネームコンペ」で結果を残せた要因は何だと思いますか?

白木:
『黒い涙』も9万いいねを叩き出していますし、ハヤシさんの作家性はXと相性がいいと思っていたんです。1話目ネームコンペは「いいね数が最も多い企画が連載権を獲得する」ものなので、連載が獲りやすいだろうと目論んでいました。

『甲化人間』のストーリーはハヤシさんにしか描けない設定になっていたし、得意のギャグがちゃんと入っていたので、勝率は高いと踏んでいましたね。

ハヤシ:
いやあ、でも辛勝でしたよね。

白木:
うん、正直「やばい」とは思っていました(笑)。もしかしたら逃げ切れないかもという話はしてましたよね。

ハヤシ:
今見たら、『甲化人間』のいいね数は2,000くらいですね。僕が応募したのは1回目のコンペでしたけど、2回目だったら確実に落ちてました(笑)。

―そう考えると、『黒い涙』の9万いいねはとんでもない数字ですね。

白木:
読み切り版の『甲化人間』は、コンペの期限もあって突貫工事でネームをつくったんです。そこから修正を一切しないでコンペに出したので、最後のオチがちょっとわかりづらかったんですよね。修正を加えた連載版の第1話は11万いいねを獲得していたので、修正して正解だったと思います。

気になる方はぜひ読み切り版連載版を見比べてみてください!

―第1話、めちゃめちゃ注目されてましたよね…。
 実はあのとき、DAYS NEO運営チームもみんなで湧いてました(笑)。

白木:
それは嬉しいですね。

ハヤシ:
ありがたいです(笑)。

強みを伸ばし、弱みをフォローする担当編集者とのタッグ

―コンペ通過後は、連載開始に向けてどういう相談をされたんですか?

白木:
ハヤシさんからテーマと背景についての資料をいただいたんですが、かなり解像度の高いビジョンがありそうだと感じました。それならテーマをもっとわかりやすく伝わるようにマンガの表現を調整してきましょう、という話をしましたね。

『甲化人間』設定資料の1枚目。
2枚目にはこの作品の結末を含めた展開まで、詳細に記載されている。

白木:
この資料を見たとき、面白い作品になるぞと心から感じたんです。ハヤシさんは本当に才能あふれる作家さんだなと思いました。DAYS NEOで『バク転』を見つけた時にも思ったのですが、やっぱりこの人は天才だと感じましたね。

資料に加えて、ハヤシさんの中で「人間とは何か」というテーマがあり、その答えを「脳」と定義されていました。なので「どちらが本物のマコトなのか」というのが作品のテーマであることをわかりやすくするために、第1話にそのセリフがあれば、もっと多くの人に届くと思ったんです。

『甲化人間』連載版 第1話より。
作品のテーマをストレートに表現するシーンが連載版で追加された。

―資料には作品を思いついた経緯と、今後のストーリー展開まで詳細に書かれていますね。

白木:
話の展開をわかりやすくするために作家さんに描きたいテーマを伺うことはあるんですが、ここまでのものが出てくるとは…全く想定していなかったですね(笑)。

―伝えたいことが明確になっていると、読者にどう伝えていくのか具体的に議論できますよね。

白木:
そうですね。テーマはマンガにおいては羅針盤と言えるものです。特にSFというジャンルは羅針盤が狂ってしまうと終着点が分からなくなってしまうんですよ。なので、テーマについては連載前に細かく話し合った記憶があります。

思い返すと、この資料をつくれる方に三幕構成の資料を送ったことがものすごく恥ずかしいですよね。何を思い上がっていたのか…。

ハヤシ:
いやいや(笑)。あれがなかったらどの賞にも引っ掛かってなかったですよ。

―試行錯誤があって、今の連載版にたどり着いたんですね。

白木:
『甲化人間』に関しては、第1話の最後のオチにたどり着くまでに苦労した覚えがあります。

ハヤシ:
苦労…しましたっけ?

白木:
しましたよ(笑)! 最後の「10年間‥‥ 私の人生 楽しかった?」というシーンが出てきたときに、すごく盛り上がった記憶があります。

『甲化人間』連載版第1話より。
試行錯誤の末、追加されたシーン。

ハヤシ:
そういえば『目からビーム』のときも、今思えば中途半端なところで作品を終わらせていました。そのとき白木さんから「ここで終わりですか!?」って指摘を受けて。

読み切り版『甲化人間』も、連載版よりも4ページ短い状態で終わらせていたんですが、「説明を足した方が伝わりやすいんじゃないか」とアドバイスをもらって、描き足したんですよね。

説明が足りなくてオチがわかりにくいという状態を繰り返しているので、そこが自分の弱点なのかもしれないです。

―『目からビーム』も今公開されているものより短かったんですね。

ハヤシ:
はい。白木さんから「このままだと賞獲得が難しいかもしれないから、結末を描き足しませんか」と言われて、数ページ追加しました。

―読者に伝えたいことがしっかりとあるハヤシ先生と、それを読者向けにわかりやすく軌道修正している白木さん。素晴らしいタッグですね。

白木:
ハヤシさんはそういう相談をすると、こちらの想像を超えたものを出してくださるんです。「こういう展開はどうですか?」とは提案させてもらうんですが、言われた通りでは終わらせず、めちゃめちゃ考えてさらに強い「解」を出してきてくれるんです。すごくリスペクトしています。

ハヤシ:
読者に伝わりやすくするためであっても、「編集者から指摘を受けて作品を修正する」という時点で、最初に自分が構想していた物語とは異なるんです。

最初の構想が絶対的に正しいわけではないのですが、修正するにしても自分が満足できない着地にはしたくない。だから、アドバイスや指摘を受けて作品を修正するときには「自分が面白いと思える内容にする」ことを心がけています。

白木:
先ほど弱点のお話をされていましたが、納得いくまでネームを描く粘り強さはハヤシさんの強みであり、尊敬している部分です。

読者に真摯に向き合うマンガ家が描いていくもの

―第1話のネーム完成後は、順調に連載開始まで進んでいったんでしょうか?

白木:
連載開始時期はある程度自由にさせてもらっているので、半年ほどかけて単行本1巻分のを原稿を貯める期間にしていました。

―連載後のスケジュールに余裕をもたせるための準備期間ですね。
 連載開始以降、スケジュールはどうですか?

白木:
痛いところをつかれましたね(笑)。

ハヤシ:
第10話までは週刊ペースで更新されていたんですが、準備期間中も週刊ペースでネームを用意できたことはなかったです。スケジュール的にはきつかったですね…。

白木:
体調を崩しながらも頑張ってくださっていましたよね。一時期、打ち合わせできないくらいハヤシさんが咳をしている時があって心配でした。

ハヤシ:
病院嫌いなんですけど、「白木さんに言われたら病院行くしかないよな…」と思ってすぐ行きました(笑)。薬を1週間くらい飲んだら治りました。

白木:
だいぶ重症ですよそれ。でもそのくらい、読者の方に対して真摯なんですよね。そういった姿勢をすごく尊敬していますし、間違いなく大物になる方だと思っています!

―今後の連載も楽しみにしているので、どうかご自愛ください…。
 では最後に、『甲化人間』のおすすめポイントを教えてください。

白木:
「人の本質はどこに宿るか?」を問いかけるSF怪作です!

人類が「蟹」の姿にされてしまうというユニークな設定も面白いのですが、第1話ラストの衝撃の展開が最高です。個人的には第5話もキャラクターの魅力が爆発していてオススメなので、ぜひ単行本でもお楽しみください!

―おふたりとも、連載中でお忙しいなかありがとうございました。

ハヤシ:
ありがとうございました。

白木:
ありがとうございました!

『甲化人間』は、ヤンマガwebにて好評連載中!
2025年4月18日に単行本 第1巻が発売。
作品への応援コメントもお待ちしております!

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