それはDAYS NEOから始まった #22 『Q eND A』陽気なおじさん先生×担当編集者インタビュー

それはDAYS NEOから始まった #22 『Q eND A』陽気なおじさん先生×担当編集者インタビュー

マッチング型マンガ投稿サイト「DAYS NEO」から連載に繋がった作者と作品を紹介する「それはDAYS NEOから始まった」、第22回!

今回は2023年5月にタテスクコミック編集部 坂野(以下、坂野)とマッチングし、角川ホラー文庫の人気作『Q eND A(キューエンドエー)』のコミカライズを担当する陽気なおじさんさん(以下、陽)、作品のメイン担当編集であるタテスクコミック編集部 石黒(以下、石黒)にインタビュー。

陽気なおじさんさんのストイックな作品作りへの姿勢や担当編集の熱い思いなど、縦読みマンガならではのお話も必見です!


力試しのつもりでDAYS NEOに投稿した

―本日はよろしくお願いいたします。「陽気なおじさん」…変わったお名前ですよね。

陽:
そうですよね、陽気でもおじさんでもないんですけど。

―実はインタビューが決まった時から、なんとお呼びすればいいか考えていました(笑)。

陽:
すみません(笑)。

坂野:
私たちは「陽おじさん」って呼ばせてもらってます。

―では陽おじさんと呼ばせていただきます!
 すでに商業誌で活動されている中、なぜDAYS NEOを利用しようと思ったのか教えてください。

陽:
コルクのマンガ専科に通っていたとき、生徒同士での情報交換の機会でDAYS NEOの存在を知りました。

実はマッチングした作品の『数多の罪があろうとも!』は、マンガ専科の課題で作成したものなんです。せっかく描いた作品なのでどこかに投稿したい!と思って、DAYS NEOを調べてみたら「縦読みマンガにも対応している」とか「たくさんの編集者が作品を読んでくれる」とか書いてあって。

それで、自分のネーム構成力がどのくらい通用するのか、いろんな方に作品を見てほしくて投稿しました。

坂野:
そうだったんですね。初めて知りました。

石黒:
私も初めて知りました!

陽:
そういえば、お話ししたことなかったですね。

―では坂野さん、『数多の罪があろうとも!』に担当希望を送った理由をお聞かせください。

坂野:
素直に、作品に目が止まったからです。

「描き慣れている」という印象でした。横読みマンガから縦読みマンガへ転向して苦戦されている作家さんのお話もよく聞いていたので、「すごいうまい人いるじゃん!」というのが正直な感想ですね(笑)。

陽:
(笑)。

坂野:
陽おじさんのネームは本当にわかりやすく読みやすいんですよ。

そこに、縦読みマンガならではの演出がしっかり入っているのが魅力です。たとえば『数多の罪があろうとも!』では縄の描写が出てきます。「何だろう?」と下にスクロールすると、首吊り死体が出てくる。これは縦読みマンガでないとできない表現ですよね。

『数多の罪があろうとも!』より。
縄が伸びている方向へスクロールすると死体が現れる。

―画面中央の縄で読者の視線を誘導していった先に…。印象的な表現ですね。

坂野:
横読みマンガは見開きページを開くと全貌が見えるので、読み始める前にコマが目に飛び込んできてネタバレになることもありますよね。それに対して縦読みマンガは下までスクロールしきって、やっと謎が解けるんです。そういった新しい視線誘導を効果的に使っているところに惹かれました。

ネームに加えて、作品ジャンルも魅力でしたね。縦読みマンガは今のところロマンスファンタジー系の作品が多いんですが、縦読みでミステリーという新しいジャンルにチャレンジしたいと思ってくれる方に出会えたのは僕らにとっても嬉しいことでした。WEBTOONで一緒に新しいことができるのではないかという可能性を強く感じました。

陽:
ちょっと照れますね(笑)。

坂野:
DAYS NEOで送ったメッセージでも同じことを言っているので、本心です(笑)。

DAYS NEO上での
坂野さん→陽おじさんへのメッセージ。

躊躇しながらもコミカライズの担当者に立候補

―坂野さんがDAYS NEO上で初めてメッセージをしたのが陽おじさんだとお聞きしました。

陽:
そうだったんですか!

坂野:
はい。KADOKAWAとして、他社が運営しているサービスに参加するのはあまりない機会なので、僕らもDAYS NEOで活動できることを楽しみにしていました。

せっかく参加したなら積極的にメッセージを送っていこう!と編集部で話し合って活動し始めた、正真正銘・初めてのメッセージが陽おじさんの作品です。

石黒:
最初にメッセージをさせていただいた方とマッチングして作品づくりにご一緒できているのが、嬉しくもあり驚きですよね。

―最初のメッセージ、送る時に緊張されましたか? 

坂野:
そりゃあもう(笑)。

僕らは新興の編集部ですし、そもそも作家さんからお返事がくるだけでありがたいと思っていました。まさか担当希望を承諾してもらえるとは思わなかったです。

―陽おじさんも投稿されてからは落ち着かない日々を過ごされていたり…?

陽:
そうですね、投稿してから2~3日はソワソワしていました。

でも、しばらく経つとすっかり忘れてしまっていましたね(笑)。担当希望のメッセージをいただいたのは作品投稿してから4か月後くらいだったので、「今!?」とびっくりしたのを覚えています。

坂野:
タテスクコミック編集部がDAYS NEOに参加したのが2023年の4月だったので、時間差になってしまいましたね。「タテ読み」のタグを付けていただいていて助かりました。

陽:
DAYS NEOからメールが届いて担当希望メッセージに気が付いたんですが、そのときちょうど実家に帰省していて母が隣にいたんです。

なので、メールを見て母と一緒に「なんかメッセージ来た!!」と驚きました。「タテスクコミック編集部」という名前が耳慣れなかったのでググったらKADOKAWAさんで…。「すごい大きいところから来た!!」と二度驚きました。

坂野:
KADOKAWA、縦読みマンガやってたんだ~って感じですよね。

陽:
すみません(笑)。

その時はフリーランスのネーム作家として活動し始めて2~3年目だったので、できる仕事があれば全部やりたい!というスタンスで仕事をしていたんです。メッセージをいただいたときはちょうど他の仕事の区切りのタイミングだったので、お話を聞いてみたいと思いました。

あとはすごく細かいところまで見てくださっているのがメッセージから伝わってきて、それがとても嬉しかったことも担当希望を承諾させていただいた理由の一つです。

―タテスクコミック編集部の参入、陽おじさんのお仕事のタイミング的にもバッチリだったんですね。マッチングしてから連載が決まるまではどんな流れでしたか。

陽:
まずはDAYS NEOに投稿した『数多の罪があろうとも!』を完成させようという話になり、制作を進めていました。

坂野:
そうですね。WEBTOONは作品のフックをつくるのが少し難しかったりするので、陽おじさんのやりたい作品の方向性をお聞きしたり、雑談ベースで色々なお仕事の話をさせてもらったりしていました。

陽:
その中で『Q eND A』のコミカライズのお話を聞きました。もちろん雑談ベースだったので、やる・やらないの返事をする段階ではなかったのですが。

坂野:
そのあと、原作の小説を読まれたんですよね。

陽:
はい。本当に面白くて一気に読み切ってしまいました。そして「こんなに面白い作品、コミカライズするなら私がやりたい!」と強く思ったんです。

とはいえ当時はネーム作家として活動していたので、作画力に自信がありませんでした。手をあげていいのかな、と迷ったのですが「坂野さんがこの話をしてくれたということは、私ができると思ってくれているからだ!」と自分を鼓舞して、「やりたいです」と連絡しました。

坂野:
実はコミカライズの件、原作の出版前に角川ホラー文庫の担当者から「面白い作品があるから、一緒に何かやらないか」と話をもらっていたんです。

僕としてはぜひ陽おじさんに担当していただきたかったので、出会ってすぐに『Q eND A』の話をしました。

『数多の罪があろうとも!』を拝見したときから実力は十分に感じていたので、作画については、僕は何も心配していませんでした。加えて、陽おじさんは筆がとても速いんです。コミティアにも出展されていたんですが、準備期間がほとんどない中、すごいクオリティの作品を出していて。一体いつ描いているんだろう?という感じでした(笑)。

だからこそ、スピード感もクオリティも高い作品をつくってもらえるという確信がありました。

陽:
ありがとうございます。

坂野:
『Q eND A』はデスゲームを題材にした作品なんですが、デスゲーム系ってどうしても絵柄が男性向けの雰囲気になりがちなんですよね。

そんな中で陽おじさんの「分かりやすいネームと受け取りやすい絵柄」は、武器になると思いました。ネームと線画が上がるたびに、石黒と「この表情いいよね~」と話し合っています。

石黒:
そうですね。ネームや線画をいただくたびに、坂野と「このキャラのこの顔がいい!」と「推し表情」談義をしています。

―デスゲームとなると、怒り・絶望・安堵…など、様々な表情が見られそうですね。

陽:
私、キャラクターの表情を描くのが好きなんです。
特に、男性が狼狽えているのを描くのがすごく好き(笑)。

デスゲームなので追い詰められていたり、怒りをむき出しにしていたり、絶望していたり。題材としてそういう表情を描き放題なので、「おいしいな~」と思いながらやっています。

『Q eND A』より。
主人公の切羽詰まった表情。

石黒:
(笑)。

坂野:
すごいな~(笑)。原作と好きなことの相性がよくて、何よりです!

ストイックなマンガ制作への姿勢

―連載まではどのようなスケジュールで進んでいったのでしょうか。

石黒:
コミカライズを連載会議にかけるにあたり、原作をお渡ししたのが12月初旬だったんですが、プロットをいただいたのは12月下旬でした。

―初めて原作に触れてから1か月足らずでプロットを提出…!?

石黒:
先ほど坂野からあったように、陽おじさんは本当に筆が速いんですよ。すごく助けられています。

―とんでもない生産力ですね。

石黒:
そうですよね(笑)。

陽:
(笑)。ありがとうございます。

―原稿作成の作業時間はどれくらいなんですか?

坂野:
これもまた速いんですよ。

陽:
プロット、ネーム、線画初稿にそれぞれ1週間ほどです。
編集さんとの定例の打合せが週1回あるので、そこまでに各工程を仕上げていくイメージですね。

―かなり計画的に作品づくりをされている印象なのですが、今まで携わった作品と今回の作品で、つくりかたに違いはありますか?

陽:
原作を読んでプロットを描いてネームを起こす、という流れは今までのお仕事と共通している部分が多いです。ただ作画を担当するのは初めてなので、時間を測りながら「どうやったら楽しく進められるか」を試行錯誤しています。

石黒:
楽しみつつ、生産力の向上にも力を入れてくださっているんですね…。

陽:
特定の作業にどれくらいの時間がかかっているのか自分で把握することが大切だと思っています。ネームを作るときも同じことをやっていました。

まず、1時間あたり何コマ描けるのか。続いて、1日で何ページ作れるのか。
体調がいい日と悪い日で描けるコマ数に差があるので比較したり、体調がよかった日は「なぜ体調がよかったか」を深掘りしたりもしますね。

感覚的な話にはなるんですけど、ネームは脳の体力を使って、作画は肉体的な体力を使っている感じがあって。それに気付いてから、実は筋トレをするようにしてます(笑)。

一同:
(笑)。

坂野:
やばい。それは知りませんでした(笑)。

―作画の肉体的な疲労って、どこの部位に出るものなんですか?

陽:
肩と背中ですね。固まってしまうので、重点的にストレッチをしてます。

石黒:
やっぱり長時間、同じ体勢で作業されるからですかね。

陽:
どうなんでしょうかね?
作業時間は9時から18時と決めているので、そこまで長時間じっと座っているわけではないんですけど。凝るものは凝るんですよね。

石黒:
いや、十分長いと思います!

坂野:
長いですよ(笑)。

陽:
どうしても夜になるにつれて集中力が下がっていくので、「午前中どれだけ動けるか」を意識しています。でも、朝早く起きるのはそこまで得意ではないんですよ。

―作業開始時間が9時とのお話でしたが、何時くらいに起きていらっしゃるんですか?

陽:
最近は頑張って7時半とかです。

石黒:
早く…ないですか?

坂野:
大抵の編集者は起きていない時間帯ですね。

―すべての社会人が見習わなくてはならないお話を聞いている気がします。

陽:
(笑)。決まった時間に起きるのが苦手なので、大体7~8時の間に起きれたらオッケー、という感じできっちり決めずにゆるくやっていますよ。

石黒:
陽おじさんの「きっちり」のハードルがものすごく高い気がします。7~8時に起床って、かなり自分に厳しいような。

陽:
そうなんですかね?

坂野:
陽おじさんのスピードとクオリティの両方を兼ね備えた作品づくりの秘密はここにあったんですね。

原作チームと連携しながらの作品づくり

―編集のおふたりは作品づくりにどのように関わっていらっしゃるんですか?

石黒:
「読者の方にいかに面白く感じてもらうか」の部分は、陽おじさんが本当に丁寧にやってくださっています。私たちが意見を言わせていただいているのは、登場人物の表情を効果的に魅せるためのコマ割りなどの部分が中心です。

『Q eND A』ならでは、という点でいうと、デスゲーム形式なのもあって、登場人物が最初26人いるんです。

坂野:
陽おじさんにはそのほとんどのキャラクターデザインを起こしてもらっています。

石黒:
物語の最初は26人が全員登場するので、服装や表情含めすごい人数のデザインをお願いすることになりました。陽おじさんにはご負担をおかけしたと思います。

陽:
いえいえ。
ただここまで大人数のキャラクターデザインは経験したことがなかったので、打合せのときに編集のおふたりにキャラクターごとの印象をお聞きして、参考にしたりしていました。
三人でイメージ合わせしながら進められたので、すごく助かりました。

坂野:
デスゲーム作品の宿命ですね(笑)。

―すごくいいチームワークなのが伝わります。
 原作の作者さんや編集者とはどんなやりとりをしているんですか?

坂野:
1話のプロット作成時にはwebミーティングでお話させていただく機会がありました。コミカライズするにあたり、小説に描かれていない裏設定の確認をさせてもらいましたね。

石黒:
はい。原作の獅子吼れお先生も、コミカライズをとても楽しみにしてくださっています。

坂野:
プロットやネームを事前に見ていただいているのですが、陽おじさんの丁寧な作品作りが伝わって、コミカライズについては安心してお任せいただけていると思っています。そのため頻繁にやりとりしているわけではないのですが、困ったことがあれば何でも聞いてください、と言ってもらえています。一緒によりよい作品を作っていける環境に感謝しています!

原作 獅子吼れお先生 公式Xより。
原作・コミカライズに感銘を受け合うお二人。

縦読みマンガならではの難しさとこだわり

―陽おじさんのマンガ制作のこだわりを教えてください。

陽:
縦読みマンガで伏線を張る難しさを日々感じています。

横読みマンガであれば気になった部分をすぐ読み返すことができると思うんですけど、縦読みの場合はページが繋がっている仕様上、特定のページまで戻るのが大変なんです。気になるポイントがあったとしても、確認の煩わしさが勝ってしまいがち。

なので、最初に読んだ段階で「これは伏線だ」と理解できるような仕掛けをして、気持ちよく読んでもらえるよう試行錯誤しています。

『数多の罪があろうとも!』より。
何かに気づいている様子の主人公。

陽:
あとは、一コマに情報を詰め込みすぎないようにしています。

読むのが大変になってしまうので、コマに盛り込む情報の取捨選択・セリフの情報量には気を付けていますね。とはいえセリフ回しにはあまり知見がないので、編集さんから意見をもらってブラッシュアップしています。

石黒:
とは言っても、陽おじさんがかなり考えて作りこんでくださるので、私たちからお伝えすることがないことがない時も多いんです。セリフは誤解が生じないような言い回しになるように気を付けています。

坂野:
実は、縦読みマンガで本格ミステリー作品って少ないんです。

先ほど陽おじさんからお話があったように、縦読みマンガは伏線を張るのが難しい媒体ですし、それも作品の少なさに影響しているかもしれません。ただ、陽おじさんの創意工夫によって『Q eND A』では「縦読みマンガで本格ミステリー」という新体験を読者のみなさんにお届けできると思っています。

この作品を皮切りに今までなかったジャンルにも挑戦していって、縦読みマンガ全体を盛り上げていきたいです!

―『Q eND A』での新体験、今から連載開始が楽しみです。
 みなさん、連載開始前のお忙しいところ、ありがとうございました!

 

陽気なおじさん先生がコミカライズを担当する『Q eND A』は2025年3月27日より、カドコミにて連載中です!
https://comic-walker.com/detail/KC_006496_S