それはDAYS NEOから始まった #26 『サレ妻聖女』はねみどり先生×担当編集者インタビュー

それはDAYS NEOから始まった #26 『サレ妻聖女』はねみどり先生×担当編集者インタビュー

マッチング型マンガ投稿サイト「DAYS NEO」から連載に繋がった作者と作品を紹介する「それはDAYS NEOから始まった」、第26回!

今回は2023年6月にタテスクコミック編集部 沖垣とマッチングし、2025年11月よりLINEマンガにて連載開始となる『サレ妻聖女』の作画を担当するはねみどりさん(以下、はね)にインタビュー。

タテ読みマンガを制作したきっかけ、横読みマンガとは異なる難しさなどを深堀り。
挑戦心あふれるマンガ家のみなさん、ぜひご一読ください。

『サレ妻聖女』
夫と親友の不倫現場に遭遇し絶望の最中、突然、異世界に聖女として召喚された遥香。
国の王子・ルイとの婚姻が持ち上がり、今度こそ幸せになれる――はずが、結婚式の当日、なぜか王子の隣には一緒に異世界に来てしまった親友の杏南がいて!?
裏切り者に絶望を……異世界サレ妻復讐譚、開幕!
はねみどり
2023年6月 DAYS NEOに『仮』を投稿。
2025年11月 LINEマンガ独占先行配信にて『サレ妻聖女』の連載を開始。
タテスク 沖垣
歴代担当作品は『くらやみガールズトーク』『ハルとゲン ~70歳、はじめての子育て~』『サレ妻聖女』など。
2023年6月 DAYS NEOにてはねみどりさんとマッチング。


本インタビューは作品のネタバレを多く含みます。
ぜひ『サレ妻聖女』を読了後にご覧ください!

「もっと多くの人に届けるため」に挑戦したタテ読みマンガ


DAYS NEOに投稿したきっかけを教えてください。

はね:
DAYS NEOで実際にマッチングしたというマンガ家さんのSNSの投稿などを見て、使ってみました。マンガ家仲間で投稿サイトの話をするときも、DAYS NEOの名前が挙がりますよ。

—DAYS NEOに講談社以外の出版社が参加していることはご存じでしたか?

はね:
実は、マッチングして初めて知ったんです。

沖垣さんから担当希望が届いて「KADOKAWAの編集部の人からメッセージ?講談社じゃなくて!?」と驚きました。すごく開かれているサービスなんですね。

—ありがとうございます。DAYS NEOは「ここに投稿すれば、あらゆる編集部の編集者と出会えるサイト」を目指して日々奮闘中です。
 続いて沖垣さん、はねみどりさんの投稿作『』に担当希望を送った理由を教えてください。

沖垣:
当時、タテスクコミック編集部がDAYS NEOに参入してすぐのタイミングでした。作家さんにお声がけできる場所ができて編集部としても盛り上がっていたので、部全体でDAYS NEOを活用しようと意気込んでいまして。

タテスクコミック編集部参入のタイミングで、タテ読みマンガについての記事を一緒につくらせていただきましたよね。

はね:
その記事、読みました!

沖垣:
そうだったんですか!ありがとうございます!

『仮』を読んだとき、タテ読みマンガをすごく研究して描かれているのがわかりました。

タテ読みマンガは「異世界ロマンスファンタジー」が圧倒的に強いジャンルです。そんな人気のジャンルを選んでいること、フルカラーであること、コマ割り・コマ間の表現など、作品のいたるところから“寄せてくれている”と感じました。

タテ読みマンガの執筆に意欲がある作家さんに違いない!ぜひ一緒に作品づくりをしたい!と思って担当希望を送りました。

DAYS NEO投稿作『仮』より。
舞台が異世界であることを連想させるツカミのシーン。

はね:
タテ読みマンガを読むのは以前から好きだったんですが、描き方のハウツー情報がほとんどなくて。『仮』は「どうやって描けばいいんだろう?」と模索しながら描いた作品です。

横読みマンガを描いて投稿サイトに公開したこともあったのですが、「ライバルが多いな」という体感があって。自分の作品をたくさんの人に届けるために、タテ読みマンガなら読んでもらえるチャンスがもっとあるかもしれないという期待も込めて、タテ読みマンガに挑戦しました。

沖垣さんから担当希望が届いたとき、どう思いましたか?

はね:

「やった~!私の戦略がハマったぜ〜!」という感じでした。

沖垣:
はねみどりさんの狙い通りに私が動いてますね(笑)。

はね:
マッチングしたことへの喜びと、「タテスクコミック編集部」という自分のやりたいことがそのまま名前になった編集部があることに驚きました。

他の編集部さんは「横読みもタテ読みもどちらもやる」というところが多いのですが、タテ読みマンガ専門の編集部があることを初めて知ったので嬉しかったですね。少し調べてみて、KADOKAWAさんの新設編集部ということを知り、「アツい!」と思ってすぐ担当希望を承諾しました。

―先ほども仰っていましたが、当時は講談社以外の出版社もDAYS NEOに参加していることはご存じなかったんですもんね。

はね:
そうですね。まさか自分の希望そのままの名前の編集部があるとは…(笑)。タイミングに感謝ですね。すごく嬉しかったです。

沖垣:
確かに担当希望を送ってすぐに承認していただいた記憶があります。

編集者メッセージでもタテ読みマンガの編集部であることはお伝えしたうえで担当希望を承諾していただいたので、「気持ちが届いた!」と、とても嬉しかったですね。すぐにご連絡しました。

タテ読みならではの「自由さ」が楽しい

―最初の打ち合わせではどんなお話をしたんですか?

沖垣:
「なぜタテ読みマンガに興味を持ったか」を深掘りさせてもらいました。

他社さんで進めていたコミカライズ企画が行き詰っているタイミングだったというのもあって、心機一転でタテ読みマンガに挑戦されたとお聞きしました。そこでタテ読みを選んでくださっていることが嬉しかったですね。

はね:
私はタテスクコミック編集部について色々聞かせていただきました。

KADOKAWAさんはIPをたくさん持っていて、タテ読みマンガにも多くの原作を提供できる…というお話が魅力的でしたね。作画志望だったので、KADOKAWAさんだったら素敵な作品に出会えるかもしれないと思って。

―連載に向けて、どのような取り組みをしていったんですか?

はね:
まずは1作描いてみようということになって、はじめは「ストーリーも作画も自分でやる」ことに挑戦したんです。その過程で、タテ読みマンガの描き方を学ばせてもらいました。

沖垣:
『仮』が初めて描いたタテ読みマンガとのことだったので、まずは他作品を研究しつつ、その内容を反映しながらご自身で改めて実際に描いてみる…という提案をしました。

―連載獲得に向けた取り組みのなかで、新たな気づきはありましたか?

はね:
たくさんありました。

例えば、1スクロールの中での間の取り方に工夫が必要だったり、セリフを1コマと考えたりするのはタテ読みマンガならではの要素だと思います。横読みマンガとあまり変わらないと思っていたのですが、想像していたよりも難しかったです。

あと、タテ読みマンガならではの魅せ方がたくさんあることにもこのときに気づきました。

タテ読みマンガでは「セリフ自体を1つのシーンとして演出する」ことがあるんです。
一番伝えたいことをあえてセリフだけで表現することもできるので、絵とセリフのバランスに難しさを感じています。

タテ読みマンガはまだ新しいジャンルなので教科書的なものが少なくて…。ただ裏を返せば、こう描かなくてはいけないというルールもないので、自由に描ける。描き方に悩みはしますが、そこが楽しいです。

―『サレ妻聖女』のネームを拝見して「タテ読みならではだなぁ」と思ったのがセリフ位置の修正依頼でした。

沖垣:
タテ読みマンガでは読者の視線がスマートフォンの中央に固定されるので、読ませたいセリフは中央に持ってきたいんですよね。

『サレ妻聖女』ネームより。
セリフを中央へ配置するように修正依頼が入っている。

はね:
「言いたいことは必ず中央に持ってくる」ということは今も意識しています。

沖垣:
読ませたいセリフを中央に持ってくることと、印象に残したい場面は正面の構図にするというのは、タテ読みマンガではかなり効果的なのではないかと思います。

はね:
そうですね。「こんなド正面に描いて大丈夫!?」と不安になるくらい、正面に描きますね(笑)。キメゴマは特に、読者と目線が合うようにしています。

『サレ妻聖女』第3話より。
自分が手を握られている錯覚に陥りそうな1コマ。

横読みマンガだとNGになってしまいそうなくらい、正面からキャラクターを描くんです。たまに不安になってカメラワークを変えたりすると、沖垣さんから「もっと正面でお願いします」と修正依頼をもらっちゃいますね。

沖垣:
(笑)。

はね:
そのあたりは特に「タテ読みマンガならでは」って感じがして面白いですね。

沖垣:
「タテ読みマンガ」という表現の新たな魅せ方や工夫を、マンガ家さんたちが今まさにつくり出している。その瞬間に立ち会っている実感があります。はねみどりさんの原稿を見て「この表現方法ステキだな」と気づかせてもらうことがたくさんありますね。業界全体でコンテンツのベースをつくっているような感覚です。

手探りで進めた連載準備

―そういった気付きから、どのように連載につながったんですか?

沖垣:
まずは描いてみるということをやっていた時に、「やっぱりタテ読みマンガの人気ジャンルは“異世界ロマンスファンタジー“と“不倫もの“だよね。それを組み合わせたら面白いのでは?」という話が挙がって。

その後連載獲得に向けて制作体制の検討を進めていくなかで、はねみどりさんには作画に集中していただくことになりまして、原作・シナリオをシナリオライターの秋山ヨウさんにご執筆いただくことになりました。シナリオも本当に面白くて…ここまでいく!?みたいな(笑)。

『サレ妻聖女』第3話より。
サレ妻が浮気相手と共に異世界へ…!?

はね:
思っていた以上に、いい意味でぶっ飛んでいますよね(笑)。

沖垣:
はい、予想できない展開にいつもワクワクしています(笑)。

秋山さんにプロット、シナリオをご執筆いただいている間は、引き続きタテ読みマンガ制作に慣れていただく期間にしていましたよね。

はね:
そうですね。数少ない教則本を買って研究して、打ち合わせのたびに表現方法の相談に乗ってもらったりしていました。
打ち合わせを通じて様々なアドバイスをいただいた結果ここまで来れたと思っているので、感謝していますし、嬉しいですね。

沖垣:
原作があるものをマンガに起こすことに慣れていただくために、練習用のプロットをお渡ししてネームを制作していただいたこともあります。この準備期間でも毎回食らいついて、想像以上の作品をつくってくださいました。

―『サレ妻聖女』のプロットができてから連載決定まで、どのくらいの期間がかかったんですか?

沖垣:
半年間くらいだったと思います。

タテ読みマンガの多くは、だいたい3話分くらいの無料話があって、そのあとのストーリーに課金してもらう形式です。「最初の3話でいかに読者の心をつかめるか」が勝負になります。

なので、連載企画を提案するときには、最初の3話は特に厳しく見られます。『サレ妻聖女』も3話目までしっかりつくり込んでから提案しましたね。

作品によるのですが、企画が通ったあとは連載に向けて原稿を描き貯めていくフェーズに移ります。キャラクターに描き慣れる・連載ペースに体を慣らす期間も必要になるので、そこに時間をかけています。

―なるほど。では今(※)は、描き貯めの時期なんですね。
 ※取材は2025年8月に実施

はね:
はい!絶賛描き貯めています。

沖垣:
タテ読みマンガは週刊連載が基本なので、週刊連載でしっかり回していくためにはある程度ストックを貯めて出していく形にしないとだんだん苦しくなってしまうんですよね。

なので、作画はいま15話目に着手していただいています。

―連載開始前と考えると、すごい話数ですね。

沖垣:
正直なところ、もう少し貯金をつくっておきたいくらいです(笑)。

―はねみどりさんは、週刊連載は初めてですか?

はね:
はい、初めてです。異世界が舞台なので、背景や小物など、描くものが多くて大変で…。特にドレスのデザインを考えるのがめちゃくちゃ大変なんです。

沖垣:
タテ読みマンガはフルカラーなので、ドレスもデザイン・配色まで画面構成を含めて考える必要があるんです。

もはやデザインの専門的な領域なので…難しいですよね。ああでもないこうでもないと言いながらデザインをブラッシュアップしていきました。

『サレ妻聖女』第6話より。
聖女らしいクラシカルなウェディングドレス。

はね:
ネームよりドレスのデザインにかけた時間のほうが多いかもしれないです(笑)。

沖垣:
確かに(笑)。

はねみどりさんがたくさんタテ読みマンガを読んで研究してくださっていたので、アウトプットとして出てきたものがめちゃくちゃよかったんです。短期間でここまで吸収してくださるのは本当にすごいですし、私が戻した意見に対して何度も食らいついてくださるので、心強いですね。

「何を一番伝えたいか」を考えて各話のネームをつくる


―はねみどりさん・秋山さん・沖垣さんはどんなふうに連携されているんですか?

沖垣:
私が間に立たせてもらって、シナリオ担当の秋山さん・作画担当のはねみどりさんそれぞれと打ち合わせをしています。

秋山さんとシナリオを作成し、それをはねみどりさんにお渡しして、まずはネームに起こしていただき、そこから作画していただく。それを着彩スタジオさんにお渡しして仕上げる。一つずつタスクをパスしていく感じで進めています。

はねみどりさんには月にネーム3本、完成原稿3本をベースに進行していただいています。ネームは社内チェックがあるので、その間は原稿の作画を進めてもらうような形です。

はねみどりさんと私の打ち合わせのペースは…話したいこと・相談したいことがあったときに私から都度お声がけしているので、1~2週間に1回くらいですね。

―秋山さんからはねみどりさんにパスされるシナリオはテキスト形式のものですか?

はね:
そうですね。私の担当範囲は「テキスト形式のシナリオを線画にするまで」です。

―なるほど、着彩スタジオさんにお渡しする色指定のために、はねみどりさんがドレスデザインをやってらっしゃるんですね。

はね:
そうなんです。

沖垣:
背景も今まさに描いてくださっているんですけど、大変ですよね。どんな感じで進めていらっしゃるんですか?

はね:
タテ読みマンガだと背景はそこまで描き込まなくてもいいのかなと思っていたんですけど、この作品ではしっかり描いていこうという話になって。今も模索中で、どういう描き方がベストかな~と試行錯誤していますね。

―テキストのシナリオをネームに起こすとき、どんなことを意識していますか。

沖垣:
私も知りたいです!

はね:
「その話の中で、何を一番伝えたいのか」を意識しています。

秋山さんはここを一番伝えたくて、おそらく次のお話にも繋がるんだろうな~というところはしっかり見せる。それを意識しながらシナリオを読んで「どのセリフを中央に置くか」を事前に検討してから、ネームをつくるようにしています。

シナリオの段階でどのセリフを中央に置くかを考えると、その話の主題が自分の中で決まるので、スムーズにネームをつくれるようになりました。

最近になってようやく手ごたえというか、やり方が掴めてきた感じがあります。

『サレ妻聖女』第1話より。
ストーリーの根幹となるセリフと表情が印象的。

―ネーム制作にはどのくらいの時間がかかるんですか?

はね:
3話分で1週間くらいですね。

沖垣:
かなりハイスピードだと思います。

はね:
線画の工程に入ると服や背景などのデザインの話が出てくるので、そこが一番大変ですね。異世界をテーマにした作品は初めてなので、未だに苦戦しています。

今は連載前で修正の時間をいただけるのもあって、少しだけ余裕があるのですが…。週刊連載になったらどうなるんでしょう、少し怖いです(笑)。

沖垣:
私たち編集部としても、背景をどれくらい書き込むのか、効果をどれくらい入れるのかなどマンガ家さんや着彩スタジオさんと話し合いながら研究しているところなんです。

なので、はねみどりさんには大変申し訳ないんですが、完成が近づいてから「ここの表情を変えたい」とか「ここはもう少し背景があったほうがいいかも」とか、後出しで相談してしまうこともあって。そういうお願いって戸惑われる作家さんが多いと思いますし、そう思って当然だと思うんです。

でもはねみどりさんは「作品を良くするためなら自分ができることは最大限やりたい」とおっしゃって、対応してくださるんです。すごくストイックで試行錯誤を重ねて完成度の高い作品を目指してらっしゃって、いつも助けられています。

そのおかげで『サレ妻聖女』はどんどんよい作品になってきているので、その気持ちとパワーに救われています。

はね:
ありがとうございます!

―最後に『サレ妻聖女』のおすすめポイントを教えていただけますか?

沖垣:
ありそうでなかった衝撃の展開と、そのワクワクを増幅させる、はねみどりさんならではの迫力あるタッチや演出にぜひハマってください!

はね:
タテの画面を生かした演出と、渾身の顔芸をぜひお楽しみいただきたいです!

―お二人とも、連載前のお忙しい中ありがとうございました!

『サレ妻聖女』は、LINEマンガにて連載開始!
作品への応援コメントもお待ちしております!